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03
 凹凸のある砂利道から平坦な岩砂漠へと地形が変わる。降り注ぐ紫外線。それを緩和させる緑がないため地熱が籠もり随分と暑い。
「彼処だな」
 見えてきた建物は、思った以上に大きな物だった。暫くトラックに揺られているとトラックが施設の前で止まる。運転手と見張りの職員は二三言葉を交わした後にゲートのロックがビープ音を鳴らしながら解除され金網のフェンスが開いた。
「降りろ」
 完全にトラックが止まったと同時に助手席に乗っていた男が外に出て二人に指示を出す。
「はいはい。言われなくても降りますよ」
 そう言ってひらひらと手を挙げたのはヴァル。
「テメェ、誰に指示してんだよ。あ?」
 不機嫌そうに男を睨み付けたのはブラッドだった。
「やあ、やあ。遠いところ、わざわざご足労頂き、嬉しい限りだよ」
 渇いた土の上に足を下ろしたところで何処から現れたのだろう。ハイエナの様な印象を受ける男がふてぶてしい態度で挨拶をしてくる。
「ようこそ、エデンへ! 君たちのことを歓迎するよ」
 そう言ってにこやかに浮かべられた表情に、二人は同時に溜息を吐いた。

「ヴァレンタイン女史から話は聞いているね?」
「ああ、詳細は知らないが、大体のことは聞いた」
「宜しい」
 通された一室はどうやら所長室らしい。趣味の悪いインテリアがレイアウトも疎らに置いて有る。
「……高けりゃいいってもんじゃねぇだろ」
「ブラッド、黙ってろ」
「けっ」
 目の前のハイエナの様な男と感性が合わないらしいブラッドはヴァルの後ろで悪態を吐く。それを窘めた後ヴァルは改めてハイエナと向き合った。
「で、これは何時解いて貰えるんだ?」
「ああ。直ぐに手配させよう。誰か!」
 感に障る声で男が人を呼ぶと、職員らしい制服を着た人間が現れる。
「何でしょう? 署長」
「彼等の拘束具を外してあげなさい」
「え?」
 拘束具を外せ。そう言われて制服を着た男は躊躇いを見せた。
「しかし…彼等はまだ…」
 どうやら凶悪犯と勘違いされているらしい。確かに見た目はチンピラにしか見えない二人組。過去の犯罪歴が有りそうと言われても否定が出来ない。だからといって、本当に犯罪を犯して此処に連れてこられたかというとそんな事は全く無い。やれやれとヴァルは首を振る。
「ああ、彼等は違うのだよ」
 ハイエナは顎を撫でながらそう答えた。
「彼等は私がとある組織に派遣を申請したハンターだ」
「ああ、そう言う事でしたか」
 事情を納得したらしい。制服の男は小さく頷くと、直ぐに二人に嵌められた拘束具を取り払ってくれた。
「んっ……ん。これで漸く自由だな!」
「未だ檻の中だけどな」
「煩せぇな。一言多いよ、お前」
 両手・両足が漸く自由になったところでヴァルは背を伸ばし欠伸を零した。ブラッドはというと枷を嵌められていた両手首を撫でた後、軽く手首・足首を回しストレッチを始める。
「で。今現在判っている状況の資料と、こっちが携帯出来る物資について聞かせて貰おうか」
 其処まで言ってヴァルの目に止まったのは葉巻のケース。
「お? 葉巻?」
「何だ? 君もやるのかね?」
 葉巻に目を止めたヴァルにハイエナが嬉しそうに目を見開いた。
「ああ、嫌いじゃ無いぜ」
「そうか! それなら一本どうだ?」
 ケースの蓋を開け中身を見せられる。断ると色々と面倒臭い。それに何より今はスモークが吸いたい。ヴァルは素直に頷くとケースの中の茶色の棒を一本掴み取り「Thanks」と呟いた。
「シガーカッターとライター借りるぜ」
「ああ、自由に使い給え」
 久しぶりに味わう葉巻の味。何時もの紙煙草とは違い香りが深い。それをゆっくりと堪能したところで、すっと差し出されたファイルに気が付きヴァルはそれを受けとる。
「これが、現状判っている分の情報だ」
「ふぅん」
 ブラッドを呼び二人して目を通す情報。
「……目新しいのはねぇな」
「そうみたいだ」
 其処に記載されている内容はヴァレンタインから渡された情報と大差が無かった。
「特に進展はねぇってことか」
 興味が無い。ブラッドは肩を竦めて戯けて見せた後資料からさっさと目を離してしまう。
「そうだな」
 一通り目を通し終わった所で、ヴァルは持っていた資料をハイエナへと返した。
「それで、君たちの携帯出来る備品なのだがね…」
 次に手渡された資料を受けとると再びヴァルは目を通す。
「……小型無線機とナイフが一本。それから携帯用の自動小銃一丁…ねぇ……」
 其処で一度写真に収められていた状況を思い浮かべた。
「これだけで仕留めろとか、先ず無理だろ」
 思わず零れた渇いた笑い。
「本来なら武器を携帯すること自体控えて欲しいのだが、そうも言ってられない状況だ。これでも充分に譲歩した精一杯なのだよ。聞き入れてくれたまえ」
「……へいへい。判りましたよっと」
 ハイエナの言いたいことは判る。少なくとも、此処は普通の施設ではなく特別な状況下である。そんな場所で武器を携帯して居ることが周りに知れれば、真っ先にターゲッティングの対象になることなど目に見えているだろう。最悪武器を奪われ殺された後、施設内で暴動が起こる可能性だって無い訳じゃ無い。ハイエナはそれを懸念しているようだ。
「やばくなったらどうすりゃいい?」
 それでも必要最小限の身の安全を保証する何かは欲しい。ヴァルは葉巻を咥え直すと資料を返しながらハイエナに問う。
「無線で連絡を入れてくれ」
「それじゃあ間に合わない」
「……そうか……ならば…」
 渋い表情を浮かべながらハイエナがデスクの引き出しを開き一枚の紙を手渡した。
「これは?」
「施設内の設計図だ」
 ハイエナの言った通り、それはこの施設の詳細な設計図だった。
「これを使って換気ダクトから逃げろって言いたいのかよ?」
 正直、戦闘になるとそんな事をしている余裕すら有るかどうか判らない。もしそう言うのなら随分とおめでたい頭をしているな。ヴァルは苦笑を浮かべながら煙を吐き出す。
「違う。よく見てくれ。特定の部屋に小さな四角が付随しているだろう?」
「四角?」
 ハイエナに言われてもう一度よく図面に目を通すと、言われた通り不自然な四角い小さなボックスが付随している部屋が幾つかあった。

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