[携帯モード] [URL送信]
05
「え?」
 自分ではそんなつもりは一切無かった。だが、ノアは目が見えない分聴覚も鋭い。微かに震えるライアンの声から、彼が何かに落ち込んでいる事を敏感に感じ取り悲しそうに眉を下げた。
「悲しいことがあったんだろ? だからそんな風に泣きそうな声をしてる」
「………っ」
 誤魔化しは通用しなかったようだ。伸ばした腕でノアの身体を抱き寄せると、温もりを強請るように腕の力を強めて相手の身体を抱き込んだ。
「……不安を感じてる?」
「ああ、強く…な…」
 途端に正直になったライアンにノアはふっと笑みを零す。
「大丈夫。俺は此処に居るよ。だから、泣かないで」
「ノアっ…」
 抱き込んだ腕に籠もる力。自分の背に回された逞しいそれが弱々しく震え出す。ライアンの頭を抱き込むようにして抱えると、ノアはそっと毛足の短い髪の毛を撫でた。
「俺にも言えないことなんだね。何が有ったのかは聞かないけど、早く元気になってよ。俺が出来る事なら何でもするから」
 何時も自分が甘えているように、今はライアンに甘えて欲しい。そんな願いを込めながら言ったたった一言の言葉。
「迷惑…じゃない…?」
「迷惑だなんて思う訳が無いじゃないか」
 ゆっくりと持ち上がった顔に触れると、頬がじんわり濡れている。涙を流して泣いていることに気が付いたノアは、そっと唇を這わせて涙を拭い取った。
「しょっぱいね。凄く悲しいって思ってる時の涙だ」
「ノア…」
 一度腕の力を緩められそっと重ねられた唇。流石にこれは予想外でノアは驚いて目を見開いた。だが不思議と抵抗する気にはなれず、直ぐに目を伏せるとライアンの首に腕を回してキスに応える。
「俺、狡い奴だな。ノアの優しさに甘えてる」
「お互い様だろ? 少しは落ち着いた?」
 ライアンの髪を撫でながらノアは笑う。
「まだ足りない」
「そう?」
 今の自分が何処までも狡いことは判っていた。自分に都合の良いように展開を進めノアの優しさに付け入ろうとしている。それでもその行動を止めることができず、ライアンは再びノアへと口付けた。
 キスという行為が友人同士でもやるのかなんてノアは知らない。しかし、ライアンがその行為で少しでも落ち着くのなら応えたいとは思う。首に絡めた腕に力を込めながら絡む舌を受け入れていると、そっとベッドに押し倒される。
「…俺を…」
 離れた唇から紡がれる言葉。
「慰めてくれる? ノア」
「なぐ…さめる?」
 ライアンの言葉を小さく復唱した後ノアは少し考える。いつも色々と助けてもらっているのだ。何か少しでも役に立てるので有れば協力させて欲しいとは思う。
「良いよ。何をすれば良い?」
 する事が分からないから指示を仰いだら、目の前で息をのむ音が聞こえてきた。不思議に思い手を伸ばすとそれを捕まれ先程よりも深く口付けられる。
「んんっ!」
 このようなキスは始めてて酷く戸惑った。目を伏せ息苦しさをやり過ごしているとライアンの手がノアの腰を撫でる。徐々に捲り上げられるパジャマの上着。無骨な指が自分の胸に付いている突起物をいじる。それに驚き目を見開くも、未だ解放されることのないキスのせいで抗議の台詞すら出てきやしない。どうして良いか分からず狼狽えているところで、今度はその手が下半身に伸び軽く股間を撫でられた。
「らいっ……んっっ!」
 そこでようやく口付けから解放され、ノアは大声で叫んだ。
「慰めてくれるんだろ?」
 切羽詰まった声が耳元で響く。
「ノアっ」
 その声がとても悲しそうで目立った抵抗も出来ずに流され始める自分の心。抵抗が薄れたことで調子に乗るライアンの手が、ノアの身体を煽るように悪戯に動き出す。このまま流されてはいけない。そう頭では理解しているのにどうすることも出来ずに時間だけが過ぎていく。

「………ノア」
 あれからどれくらいの時間が流れたのだろう。気が付けばノアはライアンの下で足を広げ内側にライアンの高ぶった熱を受け入れて吐息を零していた。
「…ぁ……」
 広げられた後孔と直腸に埋められた質量に苦しさを感じる。数度吐きだした己の熱のせいでベタつく肌と、同じように吐き出されたライアンの熱が溢れ出す事によって滑りを帯びる結合部。ノアが孔を収縮させる度、少しずつ外に零れる白濁は酷く卑猥にライアンの目に映った。
「ごめんっ」
 冷静になった頭が取り返しのつかないことをしてしまったと後悔を連れてくる。築いた程良い友人と言う距離を自らの手で壊してしまったことに強く噛んだ唇から、うっすらとにじみ出るのは錆の味がする紅い色。傷つけたかったわけではない。然し、もう何も言い訳が出来ないことは判ってはいる。
「ごめんっ…ノアっ」
 もう一度謝罪の言葉を吐き縋るように抱きつくと、苦しそうに呼吸を繰り返しながら怠そうに腕を持ち上げたノアがそっとライアンの頭を抱き込んだ。
「気は…すんだ?」
「っ!?」
 ノアの一言に驚きライアンは顔を上げる。
「すこしは…きが…まぎれたのかよ?」
 見上げた先で微笑まれた表情。泣きはらした目元がほんのりと赤い。
「これで、アンタの気が済むんなら、それで…い……」
「違うっ!」
 ノアの言葉をこれ以上聞きたくなくてライアンは思わず声を荒げた。
「違うっ、そんなつもりで抱いたんじゃないっ!」
 自分を抱く両腕をベッドに縫い付けると苦しそうな表情を浮かべてライアンは言葉を吐き出す。
「自分でもよく判らねぇけどっ…だけど、気紛れでお前の事を抱いた訳じゃねぇからっ」
 段々と自覚し始める自分の感情。嗚呼そうかとライアンは一人頷く。
「……慰めて欲しいと強請ったのは、お前の事が好きだからだよ、ノア……狡い奴でごめん…」
「……す…き…?」
 何を言っているのだろう。ノアはぼんやりと考える。
「アンタが…おれ…を…?」
「ああ」
 自分の肌の上に落ちる生暖かな雫の感触。声に含まれる嗚咽に、自分を抱く男が泣いていることに気付きノアは戸惑った。何故泣くのか判らない。
「好きだから…こんなことしたのか?」
「そうだっ」
 シーツに縫い付けられていた両腕からライアンの手が離れる。そのまま縋るように自分の身体を抱き込まれ痛い位の力だ抱きしめられると、胸の奥で小さな痛みがノアを襲った。
「不安を感じてたから肌を合わせたいって思って抱いた事は認める。でも、それだけじゃない。自分でもさっき気が付いたんだ。お前の事が好きだって…だからっ…」
「……ふぅん、そうか」
 突然の告白に楽しそうに上がる笑い声。
「ノア?」
 ノアが笑う理由が分からず顔を上げると、両手で頬を包まれそっと涙を拭い取られる。
「好きだから身体を重ねるんだなぁ……何か、恋人同士みたいだ」
「こい…びと…?」
「そう」
 殆ど無理矢理という感じで抱いたのに、ノアはそれを咎めることはしなかった。逆に、嬉しそうに笑いライアンに何度もキスを贈る。
「…怒らない…のか…?」
「なんで?」
 怒るという事が判らない。そんな風に首を傾げられライアンは複雑な表情を浮かべる。
「だって…俺…」
「アンタに必要とされてるってことでしょう? 抱いてくれたってことは。……こんな俺でも、ライアンのために何かできるんだってことが嬉しいのに……何故、怒る必要があるんだよ?」
 漸く見付けた生きる為の理由。それは本当に唐突ではあったが、自分の事を必要としてくれている人がこんなにも身近に居た事が何よりも嬉しくて溢れ出る涙。
「俺では釣り合わないかもしれないけど、ライアンが望んでくれるんなら、いいよ。そばにいたい。……だめ…かな…?」
「駄目なんかじゃないっ!!」
 衝動のままに抱き、自分の気持ちが後に付いてきたこの状況で嫌われることはあっても受け入れられる事は考えては居なかった。奇跡的な今の現状にライアンは必死に訴える。
「お前が良いんだ! お前じゃなきゃ嫌だ! こんな俺でも、受け入れてくれる? ノア…」
 まだ不完全なところは多々ある。それでも、今は腕の中に捉えた存在を逃がしたくない。頼むから拒まないで欲しい。そんな願いを込めて強請ると、ノアは小さく頷きそっとライアンの耳元で言葉を囁いた。
「いいよ。ライアンのこと好きだから、受け止めてあげる」

[*前へ][次へ#]

5/51ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!