04* 「困ったな…」 確かにブランとの間に肉体関係は存在していた。それは単純に、欲求不満を解消するだけのもので感情は伴わない。まさか自分が女役になるとは思わなかったが、一度抱かれてしまえば思った以上に居心地の良い腕の中と相手の気遣いは嫌な気がしない。不思議なことに自ら足を開きブランの存在を奥にくわえ、喘ぎをこぼすことは嫌いではなかったかった。しかし、それはあくまで本気にはならないドライな関係を前提としたもの。 「アンタ、俺のこと好き…なんだ」 そう問いかければ、呼応するように強くなる包容。ブランの頭が小さく縦に揺れる。 「…そっ…か…」 たぶんこれは、初めて肉体関係を持った相手に対する、好きだと思いこむ錯覚に近いものだろう。ブランは余りにも純真で潔癖。その上頑固過ぎる。始めて出会った時から、それは感じ続けていたこと。 「俺のこと、抱きたい?」 だから、本当に心から好きだと思う相手を見つけることが出来れば、その時に自分の気持ちに始めて気が付くはずだ。それまでは己の過ちに気付くことは難しい。一刻も早く曖昧な関係にはけりを付けないととムストは思う。 「俺のこと、欲しいんだ、アンタ」 それなのに、口から零れ出る言葉は、そんな考えを裏切るようなものばかり。ストレートな感情のアピールは嫌いではない。寧ろ、分かり易くて好ましい。それに、そんな風に求められるのは結構心地よかった。だから、ブランによって快楽を植え付けられた身体が、ブランを求めて疼き出すまでそれ程時間はかからない。 「ふぅん…」 小さくそれだけ呟くと、ムストはそっと自分の右手の指を口に含み唾液を絡ませた。己の唾液で濡らした指を後孔へ導くと、一気にそれを中へと埋める。 「…ぁ……っ」 自分からそこを慣らすのは初めてだった。自然と伏せられる瞼。長い睫毛が小さく揺れる。 「ぶ………んっっ…」 左手で自分の事を抱きしめるブランの頬に触れると、そっと上を向かせ口付ける。 「………!」 ムストの行動に驚いたブランの目が大きく見開いた。先程まで抵抗を繰り返していた相手が突然、自分を煽るように求め始める。これが本当の事なのか分からずおずおずと舌を差し入れれば、直ぐに絡め捕られ相手の口内へと誘われた。そのことが嬉しくて思わず綻ぶ表情。もっと深く貪りたいと、より一層口付けを深くする。 「……ふぁっ……ぶらんっ…こっちもぉ…」 キスを堪能した後に強請るのは、先程中断された行為の続き。ブランの腕を軽く叩き、自分の指を埋めている後孔へ指を導くと、耳元で欲しいと甘く囁く。一瞬だけ固まった後直ぐに突き入れられる指の感触。普段からナミルの家事を手伝うブランの手は、ムストのもの以上に逞しく大きい。 「んぁっ!」 数週間振りに味わうその感覚に、ムストは小さく身を震わせた。 自分が欲しいとアピールされることは嫌ではない。寧ろ、心地よいとすら感じる。例えそれが偽りの感情だとしてもだ。 「ムストっ…!」 ブランの指がムストの中を犯し、ムストの手がブランのモノを煽る。余裕のない声が耳元で聞こえたと同時に引き抜かれた三本の指。ああ、そろそろか。そう思ったと同時に持ち上げられた腰。後孔に高ぶり硬くなったモノの先が擦り付けられ、思わず唾を飲み込み期待してしまう。態とらしく腰を揺らしながら落とし自ら先端を中に埋めてしまうと、煽られたブランが一気にムストの腰をつかみ下におろした。 「あぁぁぁっ!」 淫乱だと思われても構わなかった。今はこの白い存在を全身で感じていたい。漸く中に埋めてもらった熱を確かめるように締め付けムストは笑う。 「ムスト…」 ブランの手がそっとムストの頬をなでた。 「好きだよ。お前のことが」 「んっ」 何度重ねられても嬉しい唇の感触を確かめながらムストは抱きつく。離れたくないと言うように足はしっかりとブランの腰へと巻き付かせ、腕を首に回してより深く。驚くことに自分の方がこの天使に溺れ始めている。ひょっとしたら、歌声を聞いたあの日。始めて興味を持ったあの時からずっと惹かれて居たのかもしれない。 「いっぱい…ちょ…だい…あんたのことっ」 緩やかに開始される行為は、自分が誰かを抱くときにするものとは異なる何処までも優しく柔らかなもの。不器用ながらも労り傷付けないように甘く緩く与え植えつけられる快楽に眩暈を覚えて吐息を吐き出す。次第に余裕なんて無くなり、ただ下半身から這い上る快楽に身を任せ始めるともう歯止めは利かない。 「あっ……やぁ…そこっ…んっ」 すでに暴かれたポイントを攻めるブランに、縋るようにしてより強い刺激を求めムストは啼いた。その度にそれに答えるべくブランが腰を揺らす。 「ここかっ?」 何度もムストに指示を仰ぎながら、ただ腕の中にいる存在を満足させるためだけに行う行為。今ある自分がもてる技術と、好きだ、欲しいという感情をありったけ込めて。 「やぁ……いぃっ……」 余裕のない吐息と涙で揺れる不安定な瞳。 「ぶらんっ! ぶらん……っ!」 普段は落ち着き取り乱すことのない冷めた相手が、舌足らずに自分の名を呼び必死に求めてくるのが堪らなく嬉しい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |