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03*
 剥ぎ取られた衣服は床に散らばり何時の間にか曝け出される素肌。
「ちょっ、待てよ! 落ち着けって、なぁ、ブラン!!」
「駄目だ」
 欲望の色を浮かべたブランには全く余裕が無い。この状況に陥っても未だ抵抗を続けるムストの態度に感じる苛苛。
「俺はお前が欲しい。駄目なのかよ! ムストっ」
 緩い抵抗を抑え込むようにベッドに縫い付けると今日一番激しいと思われるキスをムストへとおくる。首を振ってそれを避けようと藻掻くが、それをブランが許すはずもなく、口付けは更に深いものへと変わっていく。
「………ん……っ……」
 唇を舌で無理矢理こじ開けられ逃げていこうとする舌を絡め取られる。流し込まれた唾液を必死に呑み込もうとする喉が上下に揺れ、ムストの瞳にうっすらと浮かび始める涙。ムストの意識がキスに向いている間に、ブランの手がムストの身体に触れた。始めは胸の突起を執拗に弄る。直ぐに膨らみ固くなるそれ。其処ばかり攻めていると、ムストが両足を合わせて緩く腰を揺らし始める。下半身に刺激が伝わるのだろう。緩く反応を示し始めたムスト自身が持ち上がってきているのを確認すると、ブランは胸を指で攻めていた胸から手を離し無理矢理足を開かせ、主張し始めたそれを柔らかく包み込む様に握り込んだ。
「ふぁ……っ…」
 離れた唇から小さく漏れる悲鳴。ベッドの上でムストの身体が跳ねる。
「やめ……ぶ……らんっ…」
 それでもまだ抵抗は続けるつもりらしい。力が余り入らない手を必死にブランの方へと伸ばすと、自分から引き剥がそうと腕に力を籠められた。
「なんでっ…」
 その行動が気に入らず、思わず強く握り込んでしまったムストの陰茎。
「うあぁっっ!!」
 目を見開いてムストが大きく跳ねた。
 突然の強い刺激に驚いたムストが脅えるような視線をブランへと向ける。
「……あ……」
 其処で一気に冷静になる思考。
「ちが……」
 ムストの態度に正気に戻ったブランがオロオロと狼狽える。
「こんな……違うんだ…ムスト……」
 握り締めていた陰茎から手を離すと頭を抱えてブランは緩く首を振った。
「ごめ……ごめん……」
 どうにも感情が暴走している。上手くコントロールが出来ない。こんな事は初めてだとブランは焦る。
「…………?」
 ブランの様子がおかしい。荒くなった呼吸を整えながらゆっくりと身体を起こすと、ムストはそっと腕を伸ばしブランの髪に指先を絡めた。
「っっ!?」
 脅えるようにその手からブランは逃げる。行き場を無くした腕は宙に投げ出されたまま。
「なん…だよ……」
 甘えてきたり、拒絶したり。本当に訳が分からない。ムストの眉間に深い皺が刻まれた。
「あんた、ほんとに…わけわかんねぇよっ…」
 どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。呆れた様な声でそれだけを呟くと、ムストはベッドから降りるべく身体を動かした。
「……あ…」
 ムストが居なくなってしまう。そう思うと途端に不安に囚われ、またしても無意識に手が動きムストの腕を掴む。
「何?」
「………な……ん…でも…」
 無い。そう言って手を離せば良いだけのこと。ただそれだけの事が自分には出来ない。
「用が無いなら離してよ」
 ムストの声が冷たく痛い。
「俺、腹減ってんだけど」
 全く。この天使は一体何をしたいのだろう。面倒臭そうにそう呟くと、自分の腕を掴む指を離すべくムストは手を動かした。
「いや…だ…」
「は?」
 外そうと思った指に力を籠められ、白い肌に爪が食い込む。
「ちょっ、痛いっ!」
 余りにも痛くて手を払おうと大きく腕を動かせば、ムストの身体が強引に引き寄せられ再びブランの腕の中へと閉じ込められた。
「おいっ! アンタ、何がっ…」
「好きだ」
 多分、はっきりと言葉に出して言う告白はコレが初めてだろう。自分が一番驚きながらも、ブランは言葉を続ける。
「お前の事が好きなんだ、ムスト。身体だけじゃなく心も欲しい。頼む。何処にも行かないでくれ」
 最後の方は最早悲痛な叫びに近い。
「えっ……と……」
 今言われた突然の告白を自分の中で噛み砕きながら、ムストはブランの腕の中で考えを巡らせた。
「す……き……?」
「ああ」
 曖昧な問い掛けにハッキリとした口調で答えられる。
「俺の事が?」
「そうだ」
 躊躇うことなくしっかりと。正確に紡がれる一言、一言。
「身体の事じゃなくて?」
 肉体関係の上での好きなら納得は行く。
「身体だけじゃなく、お前という存在が好きなんだ」
 しかしその可能性もきっぱりと否定されてしまった。
「もう、肉体だけの関係は嫌なんだ。ムストの事は抱きたい。でも、ただ抱くんじゃなくて、ムストの心も欲しい。そんな風に思ったりしたら駄目か?」
「駄目って…言われてもなぁ…その…」
 余りにもストレートな感情に覚えたのは眩暈。何だってこんな事に。原因が分からず思わず零れた盛大な溜息に、ブランの肩がぴくりと動く。
「やっぱ…り…迷惑…だよな……?」
 半ば諦めに近い自嘲。腰に回された腕が小さく震え始め、より一層自分を抱く腕に力が籠もる。何かに脅えるかのように小さくなる相手は、まるで親に見捨てられた子供のように酷く脆くムストの目に映った。

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