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02
 明らかにがっかりしたような態度が気に入らない。
「何でそんなに必死にナミルを探すんだよ?」
 自分の部屋に居るのに自分を見てくれないムストにつまらなさが積もる。少しでも自分を意識して欲しい。そんな気持ちから軽く睨み付けると、自分を見下ろすムストはきょとんとした表情であっさりと一言。
「え? だって、腹減ってるから」
 たったそれだけの理由で形成された不等式。
「飯だったら俺が…」
 そう言いかけてムストが嫌そうに顔を顰めた。
「無理だって」
「何故!?」
「だって、アンタと俺は食う物が違いすぎるじゃねぇか」
「…あ…」
 言われた一言に何も言い訳が出来ず、ブランは唇を噛む。
「…アンタには悪いケドさぁ、味覚も嗜好も違いすぎるんだから仕方ねぇじゃん。気持ちだけは貰っとくから」
 気を落とすなよ。そう言って乗せられた手の平。其処から伝わる温もりに無意識に持ち上がる手の平。
「ブラン?」
 気が付いたらムストの手をしっかりと握りしめていた。
「何だよ?」
「俺では…役に…たたない…のか?」
 顔を上げ真っ直ぐにムストを見ながらブランが言う。今にも泣き出してしまいそうな切迫した表情に、ムストは言葉に詰まり後ずさった。
「えっ…と…何でそうなるんだよ?」
「何でって…それは…」
 もう少し自分を必要として欲しい。無意識下でそう思って居る自分に驚く。多分これは嫉妬だろう。ムストに信用され必要とされているナミルに対しての。好きな相手が他の人間を見ている事に面白味は感じ無い。
「……でも、アンタ、肉とか苦手なんだろ…?」
 ムストからしてみれば、別に頼りたくないから無視をしている訳では無かった。ただ純粋に自分の食べたい物を目の前の人物が作るのは難しいと思って居るから遠慮していただけなのだが、何故かそれが気に入らないと文句を言われてしまう。困った様に眉を下げるムストにブランが縋るように手を伸ばす。
「あっ! ほら、果物とか、食べてみると結構美味しいんだぜ!」
 ムストの求める物を返せない事は純粋に悔しい。だが、それが出来ないからと言って頼って貰えないのは嫌だ。それは実に都合の良い自分勝手な我が儘ではあるが、漸く会えたのだ。出来れば少しでも長く傍に居たい。
「果物…食べれない訳じゃねぇけど、食った感じしねぇんだよなぁ…あれ」
 必死に他の食べ物を勧めては見るが、ムストの反応は芳しくなかった。
「取り敢えず、外に食べに行くことにするわ。ナミルが戻ってくるのは何時頃だよ?」
 始めから頼るつもりはない。そんな態度で捕まえられていた指を離すと、ムストは家主の帰宅が何時になるのかをブランに問い掛けた。
「………………」
「ブラン?」
 ブランは一向にムストの質問に答える気配が無い。
「………判ったよ。数日適当に時間を潰して戻る。ナミルが戻ってきたらそう伝えといてよ」
 深く追求するつもりはないらしい。さっさと諦めあっさりと引いてしまったムストは、それだけを言い残すと部屋を出て行こうと足を動かした。
「ムスト!!」
 行動は無意識。ブランの手がムストの腕を掴み自分の方へと引き寄せる。
「うわっ!?」
 バランスを失った身体が傾き視界がぶれた。
「なっ……何するんだよ!!」
 気が付けばブランの腕の中。中途半端に腰掛けた状態でムストは慌てる。
「離せっ!? ばっ…」
「絶対嫌だ」
 顎の下に手を差し込まれ無理矢理ブランの方へ向かされると、ムストは訳が分からないまま唇を塞がれた。大きく見開いた目。顔に動揺の色が浮かぶ。少し遅れて始まる抵抗を押さえつけるように強くなる抱擁。深くなる口付けに段々と意識がぼんやりとし始める。
「ふぅ……んっ……」
 口の端から垂れる唾液が、ムストの顎を伝い物の良いシャツの上へと小さな染みを作った。
「………何処にも行くなよ…」
 長い口付けから解放してやると、ブランは泣きそうな声で呟く。
「寂しかったんだ…頼むから、傍に居てくれ…」
 何故そんな事を唐突に言われるのかムストには判らなかった。
「ちょっ、一寸待ってよ。一体どうしたって言うんだよ?」
 屋敷の方から放たれた使い魔の知らせでイェツィラーに戻っている間に、ブランに何が有ったというのだろう。確かに無断でナミルの家を出たのは言い訳も出来ない事実。だが、ナミルに行き先を告げ何処かに出掛ける事はしたことがなかったし、ナミル自身もムストに特別に干渉してくることはなかったため、行き先を告げる必要が有るとは思って等居なかった。一生此処に戻ってくる事は無いなんて、そんなつもりは毛頭無い。少し外に用事を済ませに出ただけなのに、こんな風にブランに縋られるとは予想外だ。
「寂しかったとか、アンタ、大丈夫か?」
 真剣に判らない。そんな表情でブランの頬に触れる。するとどうだろう。
「……頭はおかしくなっていない」
 より強く抱きしめられ甘えるように擦り寄られた。
「ブラン?」
 それならば一体何が原因なのだろう。ムストは首を傾げ眉間に皺を寄せる。
「ムスト……」
 少しだけ離された身体。ブランの唇が再びムストのモノと重なる。今度は先程のような強引なモノではなく、ブランが好んで繰り返す柔らかく甘いモノ。久しぶりのその感覚に状況が判らない乍らもムストはそっと目を伏せて受け入れた。
「………ひょっとして…甘えたい…のか…?」
 其処まで長く続かなかったキスは直ぐに終わってしまう。ブランの腕の中で小さく藻掻くムストが探るように問い掛ける。
「甘えたい…とかじゃない」
「なら、何故?」
 ブランの考えはムストには理解出来そうもない。それでも必死に考えを巡らせていると、ムストの胸に頭を擦り寄せながらブランがぽつりと呟いた。
「お前が…居なくなってから、ずっと何かが足りない様な感覚に囚われていた」
「は?」
「日が経つにつれ、それはどんどん大きくなって、会いたいって言う思いが強くなって…それで…」
 とても嫌な予感が頭を過ぎった。
「………まさか…アンタ……」
 このパターンはと働く防衛本能。
「ムスト」
 掴まれた腕を軽く引っ張られ押し倒されるベッド。
「うわ!?」
 ムストの上に乗り上げたブランが、ムストの着ていた服に手を掛けた。

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あきゅろす。
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