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素直になれなくて(MiZuさんのリク)
 8万HIT記念 ハルヒ&キョン
「退屈だわ」
と、ハルヒが不満を漏らすのにも慣れてきた頃、俺も当然のように対応に慣れており、クラスメートの「またか」と言う視線もすっかりおなじみである。
「あのなハルヒ、授業が退屈ってのはまぁーわからんでもないが、それを口にするのは授業が終わってからにしてくれ」
 授業中の私語も基本的には禁止なのだが、先生方も呆れているのか最近は無視することが多くなっている。俺は授業中にもかかわらず後ろを振り返り、じとっとした目で俺をにらみつけるハルヒに言ってやった。
「大体ここんとこ毎日同じこと言ってるだろうが。ぽんぽん不可思議なことが起きても困るんだよ。おとなしくしてろ」
 ハルヒは納得したのかどうかは知らないが、頬杖をついて窓の外を眺めていた。そんなありふれた一日で、特に閉鎖空間や神人とかの非日常的なこともないある晴れた日のことの話である。



[素直になれなくて]



 そんないつも通りの日の放課後だった。
「つまんない!何かこうパーッとした凄いことが起こらないかしら!」
 ここ最近落ち着きを見せているハルヒだが、好奇心と行動力だけはずば抜けているのは相変わらずで、ハルヒの名を知らないのは言うまでもなくこの学校にはいないだろうな。
「部室にでも行けば何かあるかもしれないだろ?」
「んー、それはそうなんだけど……」
 こういう状態になったときのハルヒは何を考えているのか正直俺にはよく判らない。
「そんな気分じゃないって言うか……」
 たいがいこいつがこんなときに俺や長門や朝比奈さん、ついでに古泉が面倒ごとに巻き込まれるのはこいつは知ったこっちゃないんだろうな。
「あーもう!キョンあんたもなんか考えなさい!凄いこととか面白いこととか」
 そんなもんぽんぽん思いついたら俺がこんなに苦労するわけないだろ?
「不思議世界でもすればいいじゃないか。もしかしたら異世界かなんかに行けるかもしれないぞ」
 こいつは自覚してないが、自分のなすがままに世界を書き換えることが出来るからな。口に出した後で遅いかもしれないが、俺は何も起こらないでくれと願うばかりだ。
「何それ」
 外を眺めていた顔を俺のほうに向けて、ハルヒは相変わらずの様子でにらみつける。
「そうだな、例えば夜中の学校でキスしたりすれば……」
 なんて口走った俺は、脳裏で思い出したくもないものをリピート再生し始めた。夜中の学校、ハルヒと二人きりの世界、灰色の空間。世界の終わりと古泉に告げられた世界からもとの世界に戻ってくるとき、誰も見ていないとはいえ、ハルヒは夢だと信じ込んでいるとはいえ、間違いなく俺の唇はハルヒの唇と重なった。それしか元の世界に戻ってこれる方法がなかったとはいえ、あの時の唇のぬくもりは今でも思い出すことができる。って、なんつーもんを思い出してんだ俺は!
 すると、ハルヒは立ち上がり、俺のネクタイを引っつかみ、俺に顔を近づけて、
「え?」
 What?何?何だ?何が起こった?
「何も起きないわよ?」
 ああ、そりゃあ適当だからな。
「ばっかじゃないの!」
 実践するお前のそれ具合には敵わんよ。と、ハルヒはおもむろに机に横にかかった鞄を待ち上げて、背を向け、
「おい、部室には行かないのか?」
と言う俺の問いかけに、
「今日は帰るの!」
 と、ハルヒは何事もなかったかのように教室を出ようとした。そのときぶわっと風が吹きぬけハルヒの髪が揺れる。それは見間違いかはたまた幻覚か、真っ赤な耳が「何でも無くはない」と訴えているような気がした。



「閉鎖空間ですか?」
 習性となってしまったSOS団の部室に足しげく向かった俺は、ハルヒのいない部室で古泉とボードゲームをしていた。その古泉はいつもの営業スマイルながら、
「さて?昨日に限らずここしばらくは僕には感じられませんでしたが、何か心当たるようなことでもおありに?」
「いや……」
 正直のところ大有りだ。いったい何なんだったんだあれは、昨日一晩考え明かした俺の身にもなってくれ。当のハルヒは普段となんら変わらない態度であったし、気にする俺がおかしいのか?それもそうだ。ハルヒのとっぴな行動なんていつものことだ。いつもの……
 ああ、そうだ、いつものことだ考えても始まらん。考えないことにしておこう。
「涼宮さんと何か?」
「何もない」
 机にうつぶせ何も考えないことにしているのだが、古泉のしつこい態度がそれを拒否させる。古泉はいつもの様子だし、ついでに長門もいつもの位置でハードカバーの本をものすごいスピードで読んでいる。朝比奈さんは椅子に座ってうとうとしているし、まるで俺が馬鹿みたいだ。
「何考えてるんだろうな俺は」
 そう呟くと古泉は、
「そうですか?あなたののかかわりに関しては非常にわかりやすい方に位置すると思いますが」
 また一言置いて、
「まあわかりやすいと素直であることは別ですけどね」
と、黒のマグネットをボードにおいて、俺の白のコマがひっくり返される。何が言いたいんだお前はよ。
「あなたの位置ではわかり難い位置なのかもしれません。気づかない方がおかしくも見えますが」
「何がだ」
 俺はうつぶせたまま尋ねる。
「涼宮さんは特定の条件では特に素直ではなくなるのですよ」
「特定の……」
と、俺が顔を上げると、古泉は手を俺のほうに向け俺の番であることを指し示す。いいかげんお前の話も聞き飽きた。
「おや?」
「古泉、しばらく休戦だ」
 俺が席を立ち上がると古泉は肩を落として、
「それは残念」
と、一言言うのみだった。ようするにハルヒはわかりやすくて俺の前じゃ素直でないってことだろう?俺は部室の扉を開けて、ゆっくりと廊下を歩く。今の状況、そんなものをそのまま当てはめたら答えが出てしまうんじゃなかろうか。
「あ……」
 掃除当番だったハルヒが部室に向かう途中に出会ってしまった。

「アンタの言ったことを実践してみただけだってば」
 渡り廊下を少しそれた中庭で、俺とハルヒは向かい合う。
「お前は俺が言ったら何でもするような素直な奴だったか?」
「だから、それだけだって言ってんで……」
「ハルヒ」
 ハルヒのセリフを制して俺はハルヒを見つめる。、
「なんなのよ?」
 ハルヒはそっぽを向き、俺は真っ青な空を見上げる。さて、どうしたものか。
「夢であんたとキスしたのよ」
 俺もだ。
「不思議なことばっかりの夢だったわ。何であんたと一緒だったかはわかんないけど」
 閉鎖空間で暴れまわる神人の姿が俺の脳裏に映し出される。あの時はただ必死で、何を言ってるのか自分でもわからなくて、
「だから昨日のアンタの話でもしかしたら、なんて思っただけよ」
 本当か?あの時のキスは夢の終わりじゃあなかったのか?
「それだけか?」
 何を言ってるんだ俺は。ハルヒがそう言ったんだからもういいだろ。あれはハルヒのいつものわけのわからん突発的な行動であって、俺の思っているようなことじゃなかっただろう。ならもういいじゃないか。
「そうだって言ってるでしょ。いい加減しつこいわよキョン。大体なんでアンタがそんな……」
ああ、畜生。これじゃあ俺がまるで──
「お前を意識しちまうからだ!」
 俺はハルヒの肩をつかんでそう叫んだ。
「お前が気まぐれでやってくれたことで、」
 待てよ俺。
「こっちは昨日からお前のことばっか考えちまって……」
 なんてことを口走ってんだ俺!
「だから、俺は」
 すると俺の顔がハルヒの手によって引き寄せられ、二度目、いや三度目か?どうでもいいとにかくこの状況は何だ?
「夢で、夢でアンタとキスしたことがあるのよ」
 顔が近づけられたまま、ハルヒは顔を真っ赤にして語り始めた。
「それからさっきも」
 俺は呆然と突っ立ってハルヒの話を聞いているだけで、聞こえるのはハルヒの声と、風でざわめく木の囁きだけだ。
「何で夢だったんだろうって思ったわ」
 それは素直で無いハルヒなりの──
「意味がわかりにくいんだが?」
「っ、バカ」
 ハルヒの掌が俺の頬に当たる。それは犬や猫で言う甘噛みのようなもので、「ぺちっ」と音が鳴るくらいの弱いものだ。にもかかわらず、俺は頬をなで、
「結局あの時はやっぱ不思議なことでも起きるのかって思ってしたのか?」
 そんなことを尋ねていた。いつもの口調で。
「そんなわけないじゃない。そりゃあ多少は期待もしたけど」
 素直でないハルヒなりの答えだと思ったのだが、
「確かに夢はきっかけではあったけど結局のところしてみたかっただけよ」
ハルヒは背を向け顔だけを俺を見せ、
「だって夢の中のキョンの顔ったらなかったんだから!」
 やっぱりハルヒはハルヒだった──

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