涼宮ナツキの退屈
第八話
「原稿のほうは進んでんの?」
ナツキの声は何でかいつもの怒声より迫力があって恐怖すら感じた。
「まあ、少しはな」
俺は適当なことを言う。朝からこれっぽっちも進んではいないのだが、ここは誰もが本当のことをごまかすところだろ?ナツキは不気味な笑みまで浮かべているしな。
「ふーん、亜紀ちゃんは?」
「えっと、まあまあです」
長門さんは小さく震えていた。声を聞いていれば分かる。
「時間が迫ってるんだからね。そろそろ半分くらいまでは書き上げてもらわないと困るのよ」
ナツキは団長机に腰をかけると、腕組みをして天井を見上げる。
「あのさ、聞いていいか?」
「何よ」
ナツキは強い口調で言い放つ。ナツキに麦茶を運んできた長門さんはびくっとして一歩下がった。
「お前は何も書かないのか?」
「何かは書くわよ。でも今は他にすることがあんの!」
ナツキは麦茶を一気に飲み干してコップを机に叩きつける。
「何をしてんだ?て言うか、何か書くんならお前もプロットとか書かなくちゃいけないんじゃないのか?」
「別にいいのよ!」
ナツキは不都合なことがあるといつもこうだ。そしていつも聞けずじまいになる。
「いいからちゃっちゃと手と頭を動かす!古泉くんはもう仕上げするだけでおしまいなんだからね」
マジかよ。どんだけあの人はハードワークをこなしてやがるんだ。その気力、俺にも分けてもらいたい。出来れば俺と変わってもらいたいものだ。
「あっついわねー」
ナツキは鞄から下敷きを取り出してパタパタと自分を扇いでいた。その声はさっきの雰囲気を感じさせないいつものナツキで、俺はほっと胸をなでおろした。
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