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涼宮ナツキの退屈
第十八話
中に入っていたのはもう言うまでもなかろう?紙袋の中には丁寧に包装された小さな箱が入っていた。包み紙を丁寧に取り除くと真っ赤な箱が顔を出して、そしてその中にはハート型のチョコレートと紙切れが入っていた。紙切れには「Happy Valentine」と書いてあった。そうか、今日はバレンタインだったのか。縁のない行事だと思っていたからすっかり忘れていたよ。

「甘いな」

チョコレートを口に入れて、口の中で溶けていくチョコレートはとっても甘く、そしておいしかった。

その次の日からはけんかはしていないから仲直りと言うわけではないが、前のように自然に話せるようになっていた。

それから、俺が飴を上げると美春がチョコレートを手渡すのが俺たちの中のお約束と言うものになっていた。そのチョコレートが俺を支えてくれたこともあったし、俺の飴玉が美春を励ますこともあった。ある意味俺たちは繋がっていたのかもしれないな。

俺は美春にもらった手のひらに置かれたチョコレートを見てそんなことを思い出していた。

「どうしたの?」

美春が俺の顔を覗き込み、俺は思い出の世界から帰ってきた。大きくなったのは体くらいでこいつの心は全く変わっちゃいねえ。時々ドジをするのが玉に瑕(きず)だが美春にはもう少しお世話になるのかも知れない。

「いや、少し昔のことを思い出してたんだよ」

「昔のこと?」

美春は首をかしげて尋ねる。

「美春にはいろいろ面白いエピソードがあるからな」

例えば運動会のリレーで派手にこけたり、遠足で弁当を忘れたりとかな。思い出しただけで笑える。

「むぅ。笑わないでよ」

「いや、それは無理だ」

「キョウくんの意地悪」

美春は頬を膨らましてうなっていた。こんな素直だからあの頃の俺はこいつに恋をしたんだろうな。

初恋は実らないというのを肌で痛感したからな俺は。

俺はたった一度だけこいつを守ってやれなかった。だから俺はこいつに恋をしてはいけないんだ。

窓から見上げる空は黒い雲が覆って、雨が降り始めていた。

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あきゅろす。
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