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涼宮ナツキの退屈
第十二話
それからお姉ちゃんは上の人に無理を言って、あたしと一緒にいてもいいという許可を取ってくれた。そのことを聞いてあたしはとても喜んだ。飛び跳ねたり走り回ったりして体全体で喜びを表現した。お姉ちゃんもそれを見て笑っていた。

お姉ちゃんと暮らし始めてしばらく経って、あたしはこの街にやってきた。お姉ちゃんの仕事の関係で転々としていたあたしには、友達を作ることができなかった。お姉ちゃんは気に病んでいたが、あたしはそれでもよかった。だって、あたしにはお姉ちゃんがいるんだもん。今のあたしにはそれだけで十分だった。

この街に引っ越してきた次の日、荷物の片付けに隣の家の人もやってきた。荷物は少ないものの、女二人で片付けるにはかなりの量があったし、男手があるのは助かる。その隣の家の家族はお姉ちゃんと同じくらいの歳のお姉さんとお兄さん、そしてあたしと同じくらいの男の子の三人家族のようだ。

大きな箱を運ぼうとしていたあたしに、男の子はあたしの反対側を持って手伝ってくれた。

「一緒に運ぼ。どこに運べばいいの?」

男の子は重たい荷物を運んでいるのにもかかわらず、笑顔で話しかけてきた。お姉ちゃん以外の人とあんまり話したことのなかったあたしはただ自分の部屋を指差すだけだった。

「あそこだね。じゃあ俺が下を支えるから、君が先にあがってよ」

「うん」

男の子のおかげで荷物は簡単にあたしの部屋に運びこめた。男の子はあたしの部屋を見回すと、窓を開けた。

「俺の部屋あそこだからいつでも来ていいよ。えーと、朝比奈さんだっけ?」

「美春でいいよ。お姉ちゃんもそう呼ぶし」

なんだか知らないけど初めて話すのに話しやすい。

「じゃあ俺のこともキョウでいいよ。お父さんがそう呼ぶから」

そう言うとキョウくんはポケットに手をつっこみ何かを取り出した。

「じゃあお友達のしるし。今日から俺たち友達な!」

キョウくんはあたしの手のひらに飴を乗せて満足げに笑っていた。

「飴玉は幸せの味がするから。なめると口の中で花が咲くんだよ」

それを聞いてあたしはくすりと笑った。くさいセリフをこんなに堂々と言う人なんてはじめてだし。

「笑うなよ。いいから騙されたと思ってなめてみろって」

男の子の顔がまっかっかになっていくので、あたしは飴玉を口に入れた。甘い味が口の中に広がる。

「おいしい?」

「うん!おいしい」

それがキョウくんと初めて出会った日のことだった。

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