涼宮ナツキの退屈
第十八話
というような回想を終え、俺は立ち上がるとそのまま固まってしまった。親父から視線が逸れず、俺は思考を停止した。
縦の半分に斬られた体、そして大量の血。外は嵐。ここにいるのは俺たちだけ。ということは、この中に犯人がいるということなのか?
母さんは涙をボロボロ落とし、俺は唖然とするばかり。みくるさんに美春はしがみつき、長門さんは手で目を隠して見なかったことにしているようだ。一樹先輩は多少堪えているようだが落ち着いてしたし、長門先生と校長はいつもの様子だった。
「大変なことになりましたね」
古泉校長が母さんに歩み寄り、胸を貸す。ちょっと複雑な気分がしたが、俺なら身長が少し足りないからな。
「まずは現場保存が必要。部屋を出るべき」
この合宿で初めて長門先生の声を聞いた気がしたが、俺たちはその指示通り倉庫を出た。相変わらず嵐は収まらず、逆に激しさを増していた。
濡れた体を風呂で温めながら俺は考えていた。親父を殺したのは誰だ?正直に出てきてくれたら今の俺ならまだ犯人に手は出さない。保障はできないが。
「キョウくん、大丈夫かい?」
薄く笑みを浮かべて一樹先輩が尋ねてきた。
「ええ、まあ」
今の俺は犯人への怒りと恨む気持ちばかりで、そんな返事しかできなかった。
「あまり考えない方がいい。考えれば考えるほど苦しくなるからね」
一樹先輩のセリフが心に染み渡る。今の俺は一樹先輩の考える悪い方向に向かっているみたいだ。俺は涙をこらえて風呂をあがることにした。
「ありがとうございます」
こみ上がる気持ちを押し殺しながら俺は「お先に失礼します」と一樹先輩に言うと、脱衣所に用意されたバスタオルを体についた水滴以外で濡らしていた。
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