涼宮ナツキの憂鬱
第一一一話
階段を上りきると屋上への入口となるドアがある。俺は迷うことなくそのドアノブをひねり扉を開けた。
快晴の空の下、吹き抜ける風を感じながら俺は空を見上げ溜息をついた。
「どうしたの?あんたらしくもない」
声に気づき後ろを振り向くと、そこには……
「ナツキ?」
目をこすりもう一度見てみると、
「ナツキって誰?あんたの彼女?」
「何だ、母さんか」
「あたしで悪かったわね」
一瞬ナツキに見えたのは母さんとナツキが良く似ているからだろうか。俺の前に立っているのは涼宮ナツキではなく涼宮ハルヒ、俺の母さんである。
「溜息なんかついてどうしたの?」
「探し物が見つからないのさ」
「そのナツキって娘がその探し物?」
さっきの一言だけで母さんは解ったらしい。まあそうだろうな、気づかないやつは相当鈍感だ。
「うん」
俺は今どんな顔をしているのだろうか。
「あんたもそういう悩みを持ち出すようになったのね」
母さんは笑っていた。その元気を少しでいいから分けてもらいたいものだ。
「そう?ちょっぴり注入してあげようか?」
なんだか知らないが母さんは突然俺をにらみ始めた。なんでそんなにまじめに見つめてるんだ?前を見るに見れないじゃないか。
「どう、少しは効いたでしょう?」
母さんは勝ち誇った笑顔を作る。このにらめっこにどんな効能があったのいうだろうか。
しかし、今の俺にはそんな冗談など通用しなかったみたいである。怒りがもうすぐそこまでこみ上げているのが自分でも解る。
「男ならいつまでもうじうじしないの」
そう言われてもな。俺にとるべき行動があるのなら教えてくれよ。
「灯台下暗しよ。答えは意外と近くにあるものよ」
母さんはそう言うと背を向けて姿を消した。
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