涼宮ナツキの憂鬱
第十七話
時計の針の音まで聞こえるほど静かだった。これまでこんなにゆっくり流れる時を感じたことがない。
「……帰る」
ナツキはそう呟いて部屋を出ていった。俺は呆然とその姿を見るだけだった。
「失礼しました」
俺も部屋を出て長門先生に鍵を返し、そう言って帰ろうとした。その時、
「諦めたら負け」
ただ一言そう言った。やっと聞き取れるくらい小さな声で。
俺は長門先生にペコリとお辞儀して背を向けた。
「……母さん」
図書室を出るとしんみり顔の母さんがいた。
「あの子には悪い事したわね」
溜め息をついて母さんは言った。
「あの子にごめんって言っておいて」
「わかった」
母さんは微笑み立ち去った。俺もそろそろ帰るとしよう。
夕焼けに染まった空はとても綺麗で、長く伸びた影は弱々しく揺れていた。
ただ今日はなぜだか知らないが真っ直ぐ帰る気にはならなかった。
俺の足は自然と早足になっていて、しまいには走り出してしまった。お節介かもしれない。ただ、一言あいつには言っておきたかった。
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