佐かす
辺り一面を覆い尽くす、白。
こんな景色を見た時は、寒さより、自分の赤くなった手を思い出す。
今より小さく、今とは違う意味で赤く染まった自分の手を――――。
忍としての修業を始めて初めての冬。
感情を殺す訓練なんてまだ受けていなかったから、大人たちが嫌がる雪も、素直に喜んでいた。
雪うさぎに雪だるま、かまくらは流石に作れなくて、けれど一人で一生懸命に雪であそんでいたことは覚えている。
「…寒い」
いつの間にか、止んでいたはずの雪がまた降り出して視界が真っ白になった。
「痛っ、」
見渡す限り白の世界で不安になった私に、遊びに夢中で気付かなかった霜焼けの痛みまで加わって、泣き出したくなった。
いよいよ耐え切れなくなって、白い雪の中にしゃがみ込んだ時、
「かすが?」
「!?さす、け…?」
不意に声がする方を向けば、任務帰りか、少し疲れた様子の佐助がいた。
その姿を見て、あぁ、もう佐助は駆け出しでもちゃんとした忍なんだ、と改めて確認した気がして、遠く感じた。
「どうしたの?…かすが、手」
「手?」
聞き返す間に隣までやって来た佐助は、サッと私の手を自分の両手で包んだ。
「なんで、こんなに赤いの…」
「え…多分霜焼けで…佐助?」
その時見た佐助の、痛みを堪えたような顔は、今でも忘れられない。
私の赤くなった手を必死に包んで佐助は言った。
「かすがの手が赤く染まるのは…嫌だよ」
私たちはしばらく黙ったまま、お互いの手を見つめていた。
その後、佐助と共に里へ戻って数日、佐助は自分で編んだであろう手袋を私に渡して、次の任務へ行った。
あの時は分からなかったが、今思えばあれは――
「かーすが」
「!?佐助っ」
「なーに、思い出にでも浸ってたの?後ろが隙だらけだよ」
「うるさい!何の用だ!」
「別にー?たまたま通りすがっただけ。誰かさんがあまりにも隙だらけなんで、教えてあげようと思ってね」
「余計なお世話だ!」
いきなり現れた佐助を怒鳴りつける。そうだ、あれからもう何年経った―――?
「つーか、長い間ここにいたの?手、真っ赤だよ…いい加減、手甲でも何でも付ければいいのに」
「私の手が赤くなるのが、そんなに嫌いか?」
「!?…かすが?」
私の手を見てまた昔のように苦しそうな顔をした佐助に、私は思っていることを、この際言ってやろうと決心した。
「この手を血で染める私を見るのが、嫌だったんだろう、お前は」
すると佐助は私と反対の方向を向いて力無く答えた。
「そーだね…でも、忍になるってのにそんなこと、言えないだろ」
「忍として生きていく以上はな…だがこれだけ言っておく」
「何?」
「お前は、私が忍になるのを止めればよかったなんて時々考えてるようだが、」
そこまで言って、佐助の目の前へ行く。
「私はこの手を血に染めてでも、お前と対等でいたかったんだ」
そう、あの時、包まれているだけじゃなく、包んでやりたいと思った。
佐助の手を両手で包む。少し面積が足りないが、仕方ない。
「…かすがの手、冷た」
「うるさい、お前が熱いんだから丁度いいだろ」
「とか何とか言って、結局自分が寒いだけでしょー」
「さぁな」
血に染まったこの手で
(貴方を包んであげたかった。)
佐かす好きな方に捧げます。ありがとうございました!
110108桜餅
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