短編 梅と梅見と天然と(三たま) それは、ある寒い日のこと― 「うぅ〜寒い……たま、一体何処へ連れて行く気だ?」 「殿、本当に寒いの苦手だね…まぁ、もうすぐ着くよ!あ、あったあった!」 「?」 ● 「ホラ、綺麗でしょ?」 「あぁ、梅の花か…しかもこんな見事なの…よく見つけたな」 「ふふ、驚くのはまだ早いっ!…今日は梅見をしようと思って色々持って来ました!」 「て、全部甘味じゃないか。しかも大福ばかり…」 「だって美味しいもの。殿だって嫌いじゃないでしょ?」 「まぁ…というか一生懸命風呂敷を背負っていたと思えば全部甘味とは…左近に怒られても知らないぞ」 「いいの!…折角咲いた春告草(はるつげぐさ)なんだから!ゆっくり見なきゃ損だよ!ホラ!そこに座るっ!」 「はい…」 ● 「さて、そろそろ帰るか?たま」 「うーん、そうだね。甘味もなくなったし…あ!殿、ちょっと待ってて!」 「あぁ…って!何やってるんだ、たま!!」 「綺麗だから一枝貰うことにしたの。殿も仕事しながら見れるでしょ?」 「だからって、枝を折るなんて…!」 「殿、知らないの?『桜切るばか、梅切らぬばか』っていうの」 「は?」 「だからね、桜は折っちゃ駄目だけど、梅は枝を切れば切るほど活力をますの。だから平気!」 「そ、そうなのか…」 「そうだよ!だからホラ、早く帰ろう?」 「たま、ちょっと…」 「ん?何?………………え…?」 「うん、たま、似合ってるよ」 「ちょ、と、殿ってば!いきなり何するの!」 「何って…たまが枝を折った時に隣の小さい枝も取れたからな。いい具合に花がついていたし、たまに似合うと思ったんだ…嫌か?」 「嫌じゃないけど…頭に飾るなんて…に、似合わないよ、私には…」 「そんなこと…たまは自覚があまりないが、そこいらの姫なんかよりよっぽど綺麗で可愛いんだぞ。もっと自信を持て!」 「え!あ、あの…殿!?」 「それにそんなに可愛いのに実戦は俺より強くて木登りも出来る。うん、やっぱりたまはすごいんだなぁ…」 「そ、そんなことないってば!」 「はは、本当だろ?よし、土産も出来たし、そろそろ帰るか!」 「…うん、そうだね、帰ろう」 帰り道にて― 「(もう、殿ってばさっきの無意識!?…でもきっと殿だから意識しては出来ないよね………あ〜!あの天然タラシー!!)」 「(うーん…たまのやつ、梅を見るのは好きだか飾られるのは嫌…だったんだろうか…かなり綺麗だったのにな……春になったら他の花でも贈ってみようか…?)」 こうして、髪に梅の花を飾り頬を花の色に負けない位赤くした少女と天然と思われた男は共に考えごとをしながら邸へ帰るのだった。 終 [*前へ][次へ#] |