短編
2010バレンタイン(佐かす)
今年も、この季節がやって来た。
本来なら、男から女へ贈り物をする日が、何があって今のような状況になったのかは私の知るところではないし、騒いだところで菓子業界を儲けさせているだけなのは重々承知、だが……
それでも私はやらねばならない!
2月14日、バレンタインデー
邪魔する者を打ち倒し、私の想いをあのお方に伝える為に――――
あぁ、待っていて下さい!謙信様!
「おっはよう!かーすが!」
「………」
バレンタイン当日
いつもより少し早く登校し、教室の扉を開けると、私の想いを邪魔する者……即ち、猿飛佐助が目の前に現われた。
今日は毎年の経験から言って、コイツが“お手伝い”と言う名の妨害をしてくる日でもある。
こいつはこの季節、私が義理であろうとなんであろうと、男にチョコレートを渡す事の一切を完璧に邪魔してくるのだ。
もちろん、謙信様も例外ではなく、私が今までチョコレートを渡す事が成功した試しはない。
「早く登校して俺様の“お手伝い”が来る前に渡そうなんて、ちょっと薄情じゃない?かすが」
「私がいつ、お前に“お手伝い”をしてほしいなどと言った?」
「まぁまぁ…ホラ、かすがみたいな子には俺様のような恋のキューピッd…「そんな者、前田が1人いれば十分だ」そうですか…」
無遠慮に顔を近付けてくるこいつの(朝早かった割にいつもより整っている)髪を引き抜いてやりたかったがどうにか堪え、私は自分の席に着いた。
荷物を机に置き、目当ての物を探すが、入れたはずの場所にそれはなかった。
「ふっふーん、甘いよかすが」
「なっ!?いつの間に!」
いきなり静かだった佐助が得意げに笑ったかと思ったら、ヤツの手には私の探していたそれ……
薄いピンクに黄色のリボンで包装した箱があった。
「ま、今年は包装が派手なお陰で鞄からすぐ盗れて助かったけど……上杉先生にここまでするならせめて俺様にも義理チョコ位くれたって……」
人の鞄から盗っておいて好き勝手に嘆く佐助に私は怒りを押さえつつ言った。
「それは、謙信様へのチョコではない。………佐助、お前にやる」
「………え?」
「だから!お前にやると言っているんだ!」
「……ウッソ!?だ、だってかすが、鞄の中にコレ以外のチョコ、入ってなかったし、本命じゃ……」
「うるさい!いるのか!?いらないのか!?ハッキリしろ!」
「い、いりますいります!………かすが…お、俺様の為に…ありがとう」
「…べ、別に、お前の為なんかじゃないんだからな!!」
予想外の出来事で頭が正常に起動していない佐助にそう言い捨てて、私は教室を出た。
翌日
「おい、猿飛のやつ一体どうしたんだ?昨日は放課後まで『かすがに本命チョコもらったー!!』って校内走り回ってたのによ」
「おぉ、聞いてくだされ元親殿!佐助のヤツ、家に帰ってかすが殿から貰った包みを開けたら…」
「開けたら?」
「手作りチョコでも板チョコでもなく、チョコレートケーキの手作りキッドが入っていたそうで、昨日泣きながら作っていたでごさる!!」
「あ〜……なるほど…そんで作って持って来いとか言ったんだろうな、かすがのヤツ」
「うむ、かすが殿はかすが殿で昨日の内に初めて上杉先生にチョコを送ったようだし…」
「猿飛のヤツ、毎年毎年しつこかったからなぁ…かすがも考えたんだろ」
「佐助もこの程度で落ち込むし、政宗殿もチョコを貰うのが面倒臭いなどと2日も休んだりして気合いが足りん!!」
「ま、伊達はそうかもしれないが佐助はちと可哀相かもしれないから許してやれ、真田」
★
「うぅ…かすがの台詞にすっかり騙されるし…結局ケーキ作っちゃうし、我ながら情けない…」
「おっ!お忍び君がケーキ持ってるってことは…成功したんだな!」
「…なんだよ、風来坊」
「いや、我ながら自分の考えたシナリオが上手く行き過ぎて怖いなぁ…ってね!」
「シナリオって…まさか!!」
「かすがちゃん、なかなかの演技力だろ?…最後の台詞なんて特に」
「おーまーえ〜!!」
「あ、やべ!口が滑った!!」
「待てっ!!」
結局、今年のバレンタインもかすがからのチョコは貰えませんでした。
来年はもっと気を引き締めていこうと思います。
…でも、かすがのあの台詞は(たとえ風来坊のシナリオでも!)俺様的にどストライクだったので来年はあんな台詞と本命チョコを貰えるように頑張りたいです。
(佐助、2月14日、15日の日記から抜粋)
終わり
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