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小噺
/2



















覚えている。









ぐちゃぐちゃになったグラウンド



視界を鈍らせる雨



それに混じって鳴り響く楽器の音
















「…お前も泣いてたじゃねえか」















気付けば楽器の音は消えていて、残ったのは、シトシトと降り続く雨の音だった。









今でも鮮明に浮かび上がるあの光景。




雨空の下、桐青高校野球部―…最後の夏は幕を閉じた。















―あの時、泣いてたじゃねえか。





声が、涙が、枯れるまで。









自分でも信じられないぐらい次から次へと溢れ出す涙。漏れる嗚咽。


少し離れた所で、自分よりもわんわん泣いていた本山。






他メンバーも皆、泣いていた。

忘れるわけがない。
今でも強烈に焼きついている。
















―あの日終わったんだ、何もかも。















終わったのに。あの雨はいつまでも降り続いている。

傘を差したところで何にもならない、強い雨が。















―それをコイツは。



もう何もかもなかったかのように笑う。


何故だろう、今確かに同じ場所に立っているのに。
自分から取ったハズの距離はとても遠くに感じた。









「なんで、」









「俺はあの時だけだよ。もう泣かない」

















雨音や車の雑音にかき消されることなく、まっすぐに放たれた言葉。
真剣なその表情、嘘ではないとわかった。




開いていたかに見えた距離は、あっけないほど早く本山の一歩で縮まってしまった。







躊躇なく踏み出された一歩、俺がどうしたって踏み出せなかった一歩。









本山はもう一回笑う。












忘れたワケではない、悔しくないワケでもない。

本山はあの瞬間に、後悔なんて感情は流してきたのだ。あの雨と一緒に。

でもその悔しさはしっかりとその胸に受け入れて。








だから笑えるのだろう。











俺は、



「マサヤンは」



俺は。




「弱いね」















「…ウゼェ」


「マサヤン、いいよ」









何回でも、泣いていいよ。







まるで普通に話してるのと同じように、コイツはそういうことを言うんだ。








「マジでお前、うぜっ…」














―雨の日のグラウンドで






繋げられなかった打線、届かなかったグローブ。










いつまでも消えないんだよ











俺の中に、今も。鳴り止まない音が、−…















「…れが、もっと…っ」








「みんな思ってる」














だからもう、いいんだよー…


穏やかな口調と笑顔で本山は言う。
言いたい事の全てをわかっているかのように。







「おまっ…っとに、ウゼ…」










お気楽、お調子者、おまけにへタレ…のクセに。
たまにこういう一面を見せる。













「…やっぱ、ウゼェ」





「マサヤンの意地っ張りー」













よしよし、と頭を撫でてくる本山の手は雨に濡れているとは思えないほど温かくて。

いつもなら払いのけるところだが、今日ぐらいはこのままでいいかと思う事にしておいた。






まだまだ降り続く長い雨。
身に受ける雨粒からはもう冷たさを感じない。


時間はかかるかもしれないが、きっとこの雨は上がるだろう。












すぐそこに、太陽が見えるから。




















End.


長いくせに終わりがこんなですみませ…!!(泣)
初めての本雅にして暗めです。

「意外に強い本山」と「意外に弱い松永」がテーマ←
頻繁に使われる「うぜぇ」は愛情の裏返しワードだと思ってます(笑)

ではでは、長ったらしい話を読んでくださった方、ありがとうございました!!

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