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好きなんだけど!
ヘルプ



「あの日、この店キャンペーン中だったから、人がいっぱいになってね。人手が足りないって言うからうちからヘルプ入れたのよ」

「あ…ありがとうございます」

「いいの。交換条件で、うちが忙しい時は手伝いますって約束だったから」

「それで…?」

「今日急に上客が入ることになっちゃって、人手が足りないの」




なるほど。
そこに俺を入れるかどうかってことか

マスターはどうやらそれを避けたいらしい。
苦い顔をして目の前の女性を見ていた




「ねぇ、難しいことはしなくていいから、今夜だけ手伝って?」




キレイに笑って見せる顔は、男の扱いには慣れているのが見てとれた。
なんの店かは分からないが、俺のせいでこんな言い争いになるのはいたたまれない


俺で手伝えるのなら、少しでもマスターの役に立ちたい




「いいですよ。俺でよろしければ」

「っ、久瀬くん、ダメだから」

「マスターに迷惑ばっかかけらんねぇし。今日だけでしょ?」

「まぁ、いい子じゃない」

「アイちゃんは黙ってて」

「そうと決まれば、さっそく来てちょうだい。あまり時間がないの」

「わかりました」

「久瀬くん!」




慌てるマスターって、珍しい。
てゆーか、初めて見たかも


アイちゃん(だっけ?)はさっさと立ち上がり、ごちそうさま、とマスターに満足そうな笑みを向ける



「あの…今さらですが、なんの店なんですか?」




見た目からして、キャバクラかスナックの人なんだろうとは思っていた。
最悪ソープとかヘルスかな、って感じ

そんな店で俺が手伝うって、ボーイぐらいしかできねぇと思うんだけど



俺の質問に、アイちゃんはそれはそれはキレイに笑って見せる。
中性的な、どこかミステリアスな雰囲気が、本当に美人だ




「アレルヤって、すぐ近くなんだけど…知ってる?」

「…アレルヤって…」




聞き覚えのある単語に、ぶわっと嫌な汗がふき出した。
マスターがアイちゃんに何か言ってるのだが、それも耳に入ってこない



確か、俺がここで襲われた時に、あの男を連れていったっていう、ニューハーフの…




「ストリップ劇場よ」




ガツン、と頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
いや、待てよ俺ニューハーフじゃねぇし


と言うことは、アイちゃんは自動的にニューハーフ…

そこまで考えて、マスターの声が聞こえた




「ほら、ムリだって。久瀬くん、断っていいから」

「ダメよ、いくって言ったじゃない」

「いや、俺…」

「誰もショーに出ろなんて言わないわよ。座って、適当に話しててくれればいいから」




それなら、とか思う俺は甘いだろうか


あの日は俺のせいで龍士まで巻き込んで、やっぱりAliceはまわらなかったんだ。
マスターに迷惑かけてばっかりだし、俺ができることならやりたい




「やります」

「久瀬くんダメだよ。バレたらどうすんの。バカなことしないで」

「大丈夫だって。暗いだろうし、ここにいても誰も気付かねーじゃん」

「男らしいわね。食べちゃいたいぐらい」

「アイちゃんは黙ってて」

「とにかく大丈夫。俺にもなんかさせてよ」




そう言えば、マスターはため息をついてアイちゃんをじとりと睨む




「絶対、変なことさせないでよ」

「わかってるって」

「久瀬くんも、なんかあったら殴ってでも逃げるんだよ」

「ちょっと、人の店だと思って勝手なこと言わないでよ」

「うるさい」

「ありがと。じゃあ、行ってきます」




今日はマスターの別の一面を見れた気がする。
いつもニコニコしてるのに、あれは仲がいいからなんだろうな。
なんか、超新鮮


荷物も置かず、また外に逆戻り

アイちゃんは白いキラキラしたショールをはおっただけで、俺を振り返った。
ヒールのせいで俺よりでかいから、見下ろされる形になる




「ストリップって、行ったことある?」

「いや、まさか」

「たぶん、びっくりすると思うわよ」

「アイちゃんがニューハーフってだけで、かなりびっくりしてますけど」

「嬉しい!ね、私キレイ?」

「キレイ。その辺の女の子より遥かに」

「ありがとー」




嬉しそうに顔をほころばせて笑うそれは、まさに女の子


それがすっ、と目を細め、妖艶に笑ったかと思うと俺の目の前ギリギリまで近付いた。
俺の頬を、キレイにネイルをほどこした長い爪が這う



人通りの多い往来で、キスされるんじゃないかと身体が強張った




「なに…」

「久瀬くんも、キレイになるわよ。元がいいから」

「……っ、それって」

「バレたら困るんでしょ?しといた方がいいんじゃない、女装」

「じょ…」




俺が、女装…?



想像して、身体中に鳥肌が立った。
どう考えても似合わねぇ。
ただの変態

身体だって普通の男だし、声も顔もそのまま。
こわい。
俺がそんな奴見つけたら、とりあえず全力でチェンジしてもらう




「やだ、ムリ」

「大丈夫だから連れてきたのよ」

「違います、精神的にムリだから」

「男に二言はないでしょ?」

「だって…」




半泣きになりながら顔を上げると、アイちゃんはキレイな笑顔で俺の肩を掴んだ

ギリ、と爪が食い込む



痛い、こわい



立ちすくむ俺に、聞いたことのない低いドスのきいた声が聞こえた




「男に二言はねぇよな?」

「は、い」




その二文字以外、俺に選択肢はない




それからアレルヤに連れていかれ、あっという間に控え室に連れていかれてしまう

アイちゃんほどではないものの、みんなかなりキレイで、想像していたような、青髭の化け物はいなかった



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あきゅろす。
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