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好きなんだけど!
言ってもきかない




そのまま無理やりダイニングテーブルに押さえつけられ、仰向けになった俺を有村が上から見下ろした

両腕を押さえ付けられ、そこに体重をかけられて動けなくなる




「……何してんだよ…」

「笹川さんの負け。俺、仕事行くから…」

「そんな元気なら病院行け」




有村は1回言い出したら聞かない。
意外とガンコ。
たぶん俺が何言っても、絶対今日は仕事に行くはず


力と言うか、体重で押さえられてるから動けねーし



俺は諦めてため息をついた

ガキじゃねぇんだから、ほんとにムリだったら休むよな。
これだけ元気なら、マジで大丈夫なのかも


元々体温の低い俺には、38度で仕事行くって理解できないんだけど




「心配してくれてんの?」

「当たり前だろ」

「そーゆうとこ、すげー好き」




嬉しそうに笑う有村に、不覚にもときめいてしまった



かわいいってこうゆう時に使うんだ

頭ボサボサだしTシャツスウェットのくせに、イケメンってお得



熱のせいで少し潤んだ目とか赤い頬とか、何を取っても様になる。
俺も生まれ変わるなら有村みたいになりたい



渋々だが、わかったと言いかけた瞬間、目の前の有村の頭がぐらりと落ちてきた。
糸が切れたみたいに、そりゃもう勢いよく


もちろん、押さえ付けられている俺が避けれるはずもなく




…―ゴッ!!




「ッ、つ―…!!」




鈍い音がして、でこと後頭部に地味だが激痛が走った



痛ってぇ!何これ!



有村の頭突きとテーブルのサンドイッチで、俺は自然と涙目になる

そのまま俺の顔の横に落ちた有村は、身体まで俺の上に覆い被さった




「有村っ、ちょ……」




ありえねぇ。
こいつ、気失ってる!?


浅い息が耳元で聞こえるものの、返事も反応もない

これってヤバイんじゃねーの




「…も……だから言ったのに…!」




自分とほとんど体格の変わらない男。
こいつを押しのけるとなると正直、鍛えてもないオッサンには辛いものがある


下手すりゃ床に落ちそうだし、はねのけるわけにはいかない。
俺は渾身の力を振り絞って有村を押してみた




「ん…ッッ、っ…!!」


あぁもう、俺何やってんだろう



全力でやっと離れた有村が、ずるずると下に落ちる前に慌てて支える

なんか、一生分の力を使い果たした気分。
変な体勢からだったから、腰が尋常じゃないほど痛い


それでも床に放置するわけにもいかず、俺はかなりの時間をかけてベッドまで引っ張っていった




「………で、どうすんの…」




運んだはいいものの、どこに何があるかもわかんねーし、看病なんかしたことねぇんだけど


薬とかあんのかな。
それより先になんか食わないとダメとか聞いたことあんな。
頭って冷やすんだっけ、温めるんだっけ?



俺がほとんど熱出ねーから、こうゆうの全然わかんない。
出ても治るまでなんも食わねぇし、薬だけ飲んで寝てるから

母さんが聞いたら発狂しそうだな



とりあえず頭は冷やすことにして、いる物は買いに行こう。
コンビニもあったはずだし、スポーツドリンクとか買って、お粥でも作ろうかな


そうと決まれば善は急げ。
起きたら仕事行くとか言い出しそうだし、今のうちに行かねーと



俺はサイフをポケットに突っ込むと、玄関に置いたままの有村の鍵をつかんで外に出た
ちらほら人通りも増えてきて、いつの間にか空は完全に明るくなっている




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「たっだいまー」




誰も返事を返してくれるはずもないのに、クセになっているため性懲りもなく繰り返す

すると、奥からガタン、と物音がした



有村は寝てたはずなのに、誰だよ

電気は出た時のまま消えているものの、ベランダから入る日差しで廊下まで明るい



俺は鍵をかけて、足音を立てないように靴を脱ぐ。
そっと廊下を歩いてみても、物音はもう聞こえなかった


万が一を考えて、リビングに続く扉を開ける

頭おかしいファンだったらどうしよう。
有村大丈夫かな、襲われてない?



顔だけを出して中を覗いてみると、すぐ床に足が投げ出されていた。
膝から上は、ここからではカウンターに隠れて見えない

でもたぶん、あのスウェットは有村のはずで



え、なんで倒れてんの。
もしかしてここまで出てきたのか




「ちょっ……有村!?」




慌ててドアを開けて中に入ると、床にうつ伏せに倒れる有村がいた。
携帯を握り締めている辺り、マネージャーにでも電話したんだろう




「……笹川さん…?帰ったと思った…」

「置いて帰るわけねーだろ。なぁ、ベッド戻れる?」

「もういい。ここ、冷たくて気持ちいいから…」




有村が大変だ


俺はレジ袋から冷えピタを出すと、長い前髪を掻き上げて貼ってやった

有村は少し目を開いたものの、ぼんやりと何を映しているのかもわからない




「…買ってきてくれたの?」

「いいから、ベッド行くぞ」

「んー……」




虚ろな目をしているものの、有村は自分で起き上がり寝室へ歩いて行く

後ろから見てても頼りないそれは、案の定、ドアに頭をぶつけていた



最後はほぼ無理やり寝室に押し込むと、倒れるようにベッドへ寝転ぶ。
ふとんの中に顔を埋めたまま何か喋っているらしいが、全く何を言ってるのかわからない




「なに」

「んー……薬、ある?」

「あるけど、なんか食わなきゃだめなんだろ」

「…食欲ない。薬飲んだら寝るから…」




気持ちはわかる




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