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好きなんだけど!
有村さんのお友達





深夜1時


そろそろ寝ようかと思っていると、バタバタとけたたましく開かれた玄関の音に、心臓が跳ねた

有村は今日は珍しく飲みに行くって言ってた。
泥酔して帰ってきたんだろうか



いつもそんなに飲んでこないのに




「たっだいまー!」




玄関から騒々しい足音と共に、バン!と開かれたリビングのドア。
聞きなれない声

酔ってごきげんではあるが、有名な顔




「……岡本啓介…?」

「わー、笹川さんだー!」

「うるせーっつってんだろ!」




後ろから、やっといつもの有村の声

岡本啓介は頭をはたかれ、楽しそうに笑って床に倒れこんだ



岡本啓介は、最近出てきた歌手グループの1人。
セクシーさを売りにするグループの中でも、バラエティー担当のムードメーカー。
男前で色気のある顔と明るい性格は、特にテレビに出ている気がする




「ジャマだから」




有村は岡本啓介をひっぱると、ソファに放り投げるようにして手を離した。
うっすらと目を開けた岡本は、端正な顔をへらりと緩ませ、ありがとう〜、と間延びした礼をする


こんな有名人が2人も

すごい空間だ




「ただいま」

「…お、おかえり」

「もう寝てるかと思ってたから、よかった」




岡本啓介のことなどなかったかのように、嬉しそうに笑う有村。
俺の頭を撫でて、持っていた空のペットボトルをゴミ箱に捨てた



なんか色々気になることはあるんだけど、それはもう山のように。
でも、なんか…




「お前、服濡れてねぇ…?」

「あぁ、これ?」




しっとりと身体に張り付いたTシャツをつまんで、有村は苦笑する

暖かくなってきたとは言え、夜はまだ少し冷える。
水遊びをする歳でも季節でもない




「今日、あいつと飲みに行ってたんだけどさ」




あいつ、と指差す先にはソファで気持ち良さそうに寝ている岡本


どっちも売れる前に共演して、どこかウマが合うらしく、有村の友人の1人だと記憶していた。
実際、こうやって家に連れてきたり、会ったりするのすら初めてだったけど。
俺とこうなる前はよく遊びに行ったりしてたらしい

たぶん有村は俺に気をつかって、極端に交流を減らしてるみたいだから



有村があいつ″なんて言うぐらいだから、かなり心を許してる人なんだろうと思う


そして、なんとなく予想してた答え




「俺の上で吐いたから、洗ってきた」

「風呂沸かす?」

「いい、シャワーだけで大丈夫」




飲んでるし、と立ち上がりかけた俺を片手で静止した




「それとも、一緒に入る?」




有村はにやりと意味ありげに笑う


かっこいいなぁ、とか思っていたら、不意打ちのキス




「かわいい顔」

「うっせ…もう入ったし」

「照れてる」

「酔ってんだろ」

「ちょっとね」




岡本啓介の寝息を聞きながら、もう一度だけキスをして


有村がくしゃみをした




「風邪ひく前に入ってこいよ」

「……っくそ、このバカ…」




風呂場に向かいながらシャツを脱ぐ背中を見送って、今度はソファの方からくしゃみが聞こえてくる


次から次へと



岡本の服を撫でてみたけど、こっちは濡れた様子も、汚れた気配すら全くない。
良かったと言えば良かったんだろうけど

とりあえず大丈夫そうだから、寝室から掛け布団を1枚持ってきてやる。
ふかふかの布団に顔を埋めて、気持ち良さそうに笑った




「…ねぇー、笹川さん…」




なんだ、起きたのか


返事をするべきかどうか戸惑っていると、切れ長の目がゆったりと開く。
うとうとと今にも閉じそうになりながらも、何か言いたげに口を開いてから、閉じた




「水とか、いる?」

「…大丈夫、おさけが飲みたいです」

「だめに決まってんだろ」

「そこをなんとか!」

「だめ」




俺は立ち上がって、冷蔵庫のミネラルウォーターをコップに入れる。
冷たい水でいっぱいになったグラスを、まどろむ岡本の目の前に差し出した




「飲める?」

「これはこれは、ありがとうございます〜」




何かの動物みたいにのっそりと起き上がって、深々と頭を下げる。
うまそうにコップの水を全部飲み干してから、長い息を吐いた

唇についた水を舐める姿も、様になっている。
俺と同じ人間なのに、何が違うって言うんだろうか




「笹川さんって、優しいですねぇ」

「普通だろ」

「……ちょっと、こっちきてみてください」




手招きされて、もっていた空のグラスをテーブルに置いた

ヒョウとかチーターみたいな、細身の肉食獣が起き上がるみたいにのっそりと、気だるげにソファに座る。
まだかなり眠そう




「なに」

「いいもの見せてあげます」

「…いいもの?」

「今日の有村さん」




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≫続きます





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あきゅろす。
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