恋するあの子は無表情。 …さん。 俺は今、感じのいい人… 久遠秋彦(クドウ アキヒコ)さんに連れられるままに、家庭科室に入室し、沢山の菓子に囲まれていた。 「そうだなぁ、コレなんかも美味しいと思うんだけど…」 久遠さんがそう言いながら俺に差し出した菓子の数、これでなんと23個目だ… 「あの…久遠さん…」 「ん?」 「もう…充分です、から…」 俺の前に置かれた23個の菓子を指差して言う 「あぁ、ごめんごめん…」 苦笑しつつ、2、3個だけ俺に差し出し残りの菓子を隅に押しやる久遠さん。 「……質問、何ですけど…」 ピンク色の、恐らく苺味であろう切り分けられたシフォンケーキをつつきながら、久遠さんに質問を投げ掛けた。 「こんなに作って…誰かに、差し上げるんです、か…?」 あ、シフォンケーキ美味い。 「うん、上げたい人がいるんだ。」 微かに頬を染めて笑う久遠さん。 「……。」 さては… 「…恋人、?」 ガタタッ! 「…?」 「ったた…」 「…大丈夫ですか…?」 図星だったようだ…。 「…久遠さん…恋人いたんですね、」 なんだか得した気分だ。 久遠さんと知り合ったのはついさっきなのに、何だかずっと前から知っていたような気がしてくる。 久遠さんの親しみやすい雰囲気と菓子のお陰かもしれないけど… 「…どんな人、なんですか…?」 少しばかり嬉々としながら久遠さんの恋人像を探ってみる… 「もうっ、からかわないでよ笹本くんっ!」 顔を赤くして怒る久遠さん。 さっきも思ったが、久遠さんはとても可愛い人だと思うんだ… 変な意味じゃなく。 「からかって、ませんよ…気になるだけです…」 こんな美味い菓子を久遠さんに作って貰える人が… 「うーん…笹本くんなら、口固そうだし…いいかな…」 「…。」 「えっと、恋人じゃないんだけど…俺の、す、好きな人はここの学園の人で、男なんだ。」 「……」 「笹本くんは、編入したばっかりで知らないと思うけど…」 「……有名な人なんですか…?」 「うん、この学園ではね。」 …有名…生徒会役員とかか…? 「えっと…内緒にしてて欲しいんだけど…」 「…。」 こくり、と頷く。 「俺の好きな人は、この学園の剣道部のエースで…学園一の男嫌いなんだ…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |