[携帯モード] [URL送信]
夕焼けを背にした海辺


「千歳、着いたで」


「ん、あぁ…早かね」


「そら寝とったら、な」


千歳の頭の重みに耐えていた肩が解放されて名前はほっとする。それを見て千歳は自分がいつの間にか隣に座っていた名前にもたれかかり眠ってしまっていた事を悟った


「あー…悪かね」


「いや、ウチもさっきまで寝とって気付かんかったし。それよりほら、ホテル着いたで」


海に面したそのホテルに生徒らは自然とテンションが上がる。大阪から新幹線で長崎に入った後、ホテルまでバスで来ただけで1日を過ごしたのだ。当然であろう。同じ班の名前と千歳もまた移動から解放されほっとしたようにバスを降りた


「ほなら割り当てられた部屋に荷物置いて、時間なったら1組から2クラスずつ風呂や」


学年主任の先生の指示で生徒が動き出す。名前は自分と同じ班の女子の後をついていきながらもホテルの構造をチェックし、部屋について荷物を置いた後少し出る、と同室の女子に告げてホテルを出た。目的は勿論、告白が起こりそうな場所の捜索である。修学旅行先のホテルの外での告白が起こる可能性は大であると名前は踏んでいた。特に四天宝寺中は先生の監視もゆるい。夜に部屋を抜け出し呼び出すことも呼び出しに応じることも可能である


「めっちゃ綺麗やな」


階段を降りて海辺に立った名前は深呼吸をした後、落ちていた貝殻を拾う。それに確かに綺麗や、という感想は持ったのだが口に出したのは名前ではなく、いつの間にか後ろにいた1人の男だった。名前はその声に振り返り少しだけ驚いたフリをしてから返事をする


「もっと綺麗なんいっぱいあるで」


「いや。なんちゅーか一連の仕草が綺麗やったんや」


「貝殻拾うただけやん」


何を言うてんのや、と思ってはいたが悪い気もしなかったので名前は笑う。それにつられたのか相手の男も笑い、そしてまた口を開いた


「球技大会ん時とは別人やな」


「あれもウチ。これもウチっちゅーだけの話やよ」


「あれ以来、謙也が自分にびびっとんで」


「あー…忍足くんはなんや巻き込んでしもた感あるなぁ」


謝った方がええやろか、と言う名前に対して男はいらんいらん、勝負ごとにそんなん、と呆れた様子を見せる


「白石ー!?どこやー!」


「お。噂をすればやな」


割と近い所から名を呼ばれた名前の目の前の男、白石蔵ノ介はここや!と声を張り上げて自分の位置を知らせる。暫くしてその海辺へと続く階段の上に現れたのは正しく噂した通りの忍足謙也であった。彼は白石の姿を確認してそれからもう1人の存在に身を固くした


「苗字、名前……!」


「こんにちは」


名前を呼ばれたので挨拶をしただけの名前に過剰に反応する謙也の顔は心なしか青い。球技大会の時の名前がそれほど印象に強かったのだろうか。それにしても色々と大袈裟やなぁ、と心で苦笑する名前を察した白石は困ったもんや、と肩をすくませ謙也を見上げた


「どうかしたんか、謙也」


「あ、おう。俺らの部屋、なんや問題あるらしいで」


「問題?」


「よぉ分からん。取り敢えず部屋の班長の白石呼んでこいて言われただけや」


自分を警戒するようにチラチラ見ながら白石に話す謙也を見て名前は笑い出してしまいそうになる。それを堪えているのが伝わっているらしく白石もまた半笑いですぐ行く、と言ってその状態を仕切り直した後名前にほな、と短く別れの言葉を告げその場を後にした。そうして白石と謙也が見えなくなってから、名前はここが告白ポイントになるやろう、と考え身を潜められる岩場を確認した後に海辺を後にした








10 END



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!