書いたもの/稲妻
7.




人は生まれてくる場所を選べない。生まれながらにして、色々なものを決められている。性別も、肌の色も、髪の色も、親も、国も。

何一つ自ら選ぶことなく、与えられたものを享受しては、生きていく。


大きな太陽の光を受けて、満ちては欠けていく月のように。与えられた光を拒めず、また求められず。それは俺にとっても。誰にとっても同じことだと思うのだ。


いつも、目の前を行くその姿を追い続けていた。どんなに精一杯走っても届かない、それは本当に高い壁だった。

あの人にとってのサッカーはスポーツというよりも、己の生きる意味そのもので。あの人の背中に重くのし掛かるそれは、俺には決して負いきれないもので。


その差に愕然とし、何度も打ち拉がれては、立ち上がってきた。



そして、過ちを犯した。



目が眩むような無影灯の光の下、漠然と終わりを覚悟した。沢山の計器に繋がれ、気付けば左腕の静脈に麻酔を打たれていた。

取り巻く全ての音が、どこかに吸い上げられていく。視界が外淵から溶け始めて、鏡が曇るようにホワイトアウトする。

朦朧としていく頭で、もう二度とサッカーは出来ないかもしれないと思った。

しかし去来した感情は、絶望でも悔恨でも諦観でもなくて、何故か一握りの満足感だった。

払った代償は有り余るほど大きく、得た力は造りものではあったけれど、一瞬でもあの人が見ている景色が見えた。それが堪らなく、嬉しかったのだ。


もう一度、見たい。辿り着きたい。それが叶わないなら、もう、終わってもいいかもしれないと。

今思うと呆れてしまうが、あの時は確かにそう思っていた。


(一歩間違えれば、サッカーが出来ないどころか命に関わるほどの怪我だった)と、後から聞かされた。

そんな状態の時ですら、こんなことを考えていたのだ。それほどまでに俺は固執していた。



欲しい。光が、欲しい。
もっと、もっと。

このままでは枯れてしまう。
誰にも負けない光を。


そう願った。彼女が自分の無力を呪い、奇跡を願ったのと同じように。


きっと誰もが、願うのだろう。
自らの力では届くことの叶わない場所に懸命に手を伸ばし、いつか届く日を夢見て、涙を流すのだろう。


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あきゅろす。
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