書いたもの/稲妻
_孤高の反逆児、襲来【中篇】


「ここにいるほとんど、いや、恐らく全員もう知っているかと思うが…。今から話すことは他でもない、不動のことだ。不動が来週、帝国に転校してくる。」


佐久間は席につくなりこう宣言した。ざわめきは起きなかった。全員が、同じ緊張感と静寂を共有している。その様子を確かめて、佐久間はさらに続けた。

「…俺はFFIで不動と一緒に戦った。その中で、あいつがどんな人間なのか、あいつがどんなプレイヤーなのか…それも自分なりに理解したつもりだ。あいつは贔屓目なしにすごい選手だと俺は思っている。多分それは、皆も分かってくれたはずだ。」

部員たちが頷く。それもそのはずだ。俺達はFFIの全ての試合を、モニター越しとはいえ繰り返し、固唾をのんで見守っていた。二人の活躍は目に焼き付けてきた。

「あいつのMFとしての能力は、鬼道も認めてる。勿論俺もだ。不動が帝国サッカー部の一員として加われば、貴重な戦力として、新たな司令塔として、活躍してくれると、俺は確信してる。…まぁ、口は悪いけどな。」

それを抜きにすれば、俺はあいつの入部を拒む理由は無いと思う。佐久間はそう言って一度言葉を切った。
そして一度周囲の表情を確かめてから、再び口を開いた。

「もちろん、この中には懸念を抱いている奴もいると思う。俺も鬼道も、最初は不動のことをずっと警戒していたからな。それは承知の上だ。でも、言わせてほしい。あいつは、仲間の信頼を裏切るような真似はしない。」

ミーティングルームは静まり返っていた。皆、佐久間の言葉を一字一句聞き逃すまいと耳をそばだてているように感じられた。帝国サッカー部は今新たな局面を迎えようとしている。その決定的な瞬間に立ち会っているという感覚が、胸の内を支配していた。


「…真帝国で起きたことは、俺はもう水に流すと決めてるし、ちゃんと不動とも和解してる。それは源田も同じだ。…あの事件の結果は、不動ひとりの責任じゃない。俺達の心にも、相応の付け入られる隙があった。だからそのことに関しては、不動をこれ以上責めないでやってくれ」


佐久間は小さく頭を下げた。佐久間がいかにこの件に心を砕いているか、よく分かる行動だった。それだけ必死に、二人は同じフィールドで戦ってきたということなんだろう。自分があの場に居られなかったことがほんの少しだけ悔まれた。

「…ここまで聞いてくれて感謝してる。もし、不動をサッカー部に迎え入れるのに反対な奴が居たら、遠慮なく言って欲しい。ここは(俺達)のサッカー部だ。一人でも反対者がいる状態で、俺は結論を出したくない。賛成してくれるなら、」


間髪入れずに、拍手が沸いた。勿論、俺も。


佐久間は一瞬ポカンとして、それから「お前らまさか俺が遅れてる間に打ち合わせでもしてたのか!」と言って笑った。

「先輩達がいいんなら、俺達は反対する理由なんて何もないっスよ。」
「ってか口が悪いのは俺達もそんなに変わらね―だろ」
「全くもって正論だな。」
「分かってるなら直せよ…」

「そういうことなら、決まりだな。」
佐久間はもう一度、席に戻ると言い放った。

「明日の休日練習は11時から。場所は羽田のバスターミナル集合な。遅刻するなよ?」



20111229


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