始まりのカーテン
幕が閉じた・・
これで又一つの終劇となる
会場が明るくなっていく中で私は、一つの感動を覚えていた。
それは新しい何か、希望を見出したような
なぜなら私はこんなに完成度の高いハムレットを見た事がなかったから・・・・
それは、決して他の劇団の評価が低かったわけではない。そしてこの劇団の人たちが凄腕だったわけでもなく、
全てはたった一人の役者が引き起こした波紋なのだと確信した。
その波紋は強みを増して広がってゆき、他の役者達までもを巻き込み舞台を一つの世界とする。
そして私はその世界に魅せられたと。
「お疲れ様、代役さん。」
「・・・・。」
声をかけてきた女に男は黙って振り向いた、夜の街を歩いていたその男はいかにも怪しげな格好をしている、仮面に青いおかっぱ頭のウィッグ・・それにステッキ
しかし女は返事のしない男に続けた。
「貴方のハムレット、素敵だったわ。お話がしたいのいいかしら?」
女は歩みを止めない男にしがみつくように話かける。そんな彼女を厄介だと思った男は諦めさせるかの様に重たく口を開いた。
「残念ながらお嬢さん、俺は役者じゃないんだ」
「やだ、それならなんだってゆうの?」
「売店の店員だよ、ほら会場の入って直ぐ左にあっただろう?そこで働いているただのバイトさ、いやーねハムレットが始まってから忙しくなっちゃって大へ・・」
「うそよ」
そうおどけて話出した男に、彼女は真顔で力強く返した。彼女の目は仮面の奥の瞳を捉えて離さない。
それは絶対の自信から来るもので、男もそれを解っていた。
「なぜ嘘だと?」
「貴方は今日ハムレットを代役で演じた男よ、外見からは想像できないけれど間違いないわ。売店に居たのは女だったしね、嘘を吐くならバレない嘘を吐きなさいよ。」
「まぁまぁそう怒りなさんなって・・・しかし俺が売店の店員じゃないとしてもハムレットを演じた役者だと言う根拠はどこにもないだろ?お前さんの当てずっぽうな勘だ。さ、じゃあ俺はもう帰るとするよ、わざわざ車の前まで送ってくれてありがとう、ジェントルなお嬢さんだ」
彼女がハッとした時にはもう遅かった、追いかけながら話に夢中になっていた彼女は男が車に乗り込むまで車の存在に気づかなかったのだ
なんとも滑稽な話だが、彼女はココが何処なのかも解らない・・。
「ちょ・・ちょっと!まってよ!!」
女の呼び止める声も虚しく、男は逃げ去るように車を走らせ行ってしまった・・・。
「信じられない!おいていくなんて!!」
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