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3。





荷物を車に詰め込んで、最上階のレストラン街を少し回る。和洋中、バイキングもいっぱいあって選ぶのが大変そうだ。もうそろそろ15分かなーと思ってエスカレーター付近のベンチで座っていると、少しざわめきが聞こえた。


え、え、ちょっとエレベーターからざわめきが近づいている?ベンチから立って、少しその場を離れようとも思ったが、騒がれている人物が想像通りで顔が引きつった。
おいおい、周りのお嬢さん方はどうした。ちょっと目を放した15分の内に周りには目をハートにした女子高生というか女性たちがぞろぞろと続いている。


まさに、唖然。え、え?ちょっとお嬢さんたち刺青でサングラスの男何かしでかしちゃったのかしら。キャーキャー言っている女子たちに見向きもせず男は美和の元まで一直線にやってきた。




『…何事?』
『さぁな。それより腹減った』




我関せずと言う様に、ぽいっと財布を返されたので慌てて受け取る。えええ、ちょっと若い娘さんたち、別にこの人芸能人でもなんでもないんだけどむしろ異世界人ですよ?じゃなくて、なにもしてなければいいんだけど。再度聞いてもさぁ、としか言わない男に冷や汗掻きながらも先を歩く男に付いていく。犯罪だけはやめてくれ。


レストラン街は人が沢山いた。時間はピーク時を脱してきているとはいえ、おば様方や女性が沢山います。その中でサングラスした刺青の外人さんが現れたら、好機の目に曝されるのも当然で。注目されている男は綺麗に流しているが、わたしはちょっと居心地が悪い。



『…そういえば、嫌いなものとかあるの?』
『食べれりゃ文句ない』
『そうですか。んじゃバイキングでいいですかね』



さっさと店に逃げ込もう。手っ取り早く、目の前にある自然食品のバイキングレストランを指さす。英語表記もしてあって、別にいいと言ってくれたので店に入る。
店員さんが直ぐに応対してくれて、席に案内された。時間は90分以内で食べ放題ということを説明すると、ふーんと興味無さそうだ。
飲み物も飲み放題なので、取り敢えず何がいいと聞くと冷たいモノ、というアバウトな答えが返ってきた。しょうがない、この店一押しの有機栽培というアイスコーヒーと、アイスティーを持っていく。どっちがいいと聞くとコーヒーを選んだ。



面倒臭そうなので、適当にお皿に色々盛り付けてテーブルに持っていく。スープとライスも持って行って、ちゃんとスプーンやフォークも持ってきてあげる。なんて甲斐甲斐しいんだろう、美和は長い脚を組んでアイスコーヒーを飲んでいる男を睨む。まぁ、この店を選んだのは自分なので、しょうがない。一通りテーブルが埋まって、目の前の男と一緒にご飯を食べようと促す。



『いただきます』



両手を合わせて、持ってきたおかずを口に運ぶ。人参の甘酢煮は優しい味で美味しい。サラダも黒酢ドレッシングで口当たりは爽やかで食べやすい。目の前の男も普通に文句なく食べている辺り、特に食べられないものはない様だ。
直ぐプレートは空になったので、男にお代わりするかと聞くと今度は自分で取りに行くようだ。一緒に立ち上がって、さっきのはこれだよ、とか話す。煮物は初めてのようで数種類取っていた。鳥の空揚げも美味しかったので結構お皿に盛られている。ふふ、気に入ったのかな。しかし、細身に見えるけど、ちゃんと男の子なんだな。結構食べるモノね。



『その細身に結構入るんだね…』
『普通だ』



美和は甘いものを数種類取って食べているのだが、目の前で消えていく食事は不思議な感じだ。あ、この杏仁豆腐美味い。
デザートを頬張っていると目の前の男は、大量な量を食べ終わっていた。うん、速いな。
ちまちま食べていたら、珍しく男は自分から喋ってきた。



『…旨そうに食うな、アンタ』



くくっと笑われて、憮然とする。美味しいものを美味しく食べて何が悪い。食後のコーヒーを飲む男に少し意地悪というか、悪戯心が生まれる美和。
白くて弾力のある、杏仁豆腐を掬ってサングラスの男の前に差し出してみた。怪訝な顔をした男を見て、内心べーっと舌を出す。実際は表情に出さず、にっこり笑って言った。



『食べる?』
『……』



困るがいい。まぁ、この男のことだから呆れて跳ね除けられるだろうが、少し戸惑えばいいんだ。まったく、年下だと思うのに可愛げがないし何故か大人っぽいし、少し悪戯心を出したって罰は当たらないだろう。そんなことを思いながら、仮面を被りつつ、スプーンを下げようとした、時。


がぶり。


目の前の男が、少し屈んで口を開いたと思ったら、スプーンに齧りついたのが見えた。
がちっと固まって、美和は目の前の男を見詰めると、目が合った。ふっと意地悪く口元が歪んで、ぺろっと赤い舌が見えた。して、やられたのが美和だと悟る。




『…ゴチソウサン』




ゴクリ、と喉仏が上下して咀嚼されたらしい杏仁豆腐。予想外ですよ、キミ。
朱くなって堪るか、と鉄仮面に力をいれて何ともないように装って、『そう、よかった』と笑い返してやった。くっそう、年下の癖に年下の癖に、なんだあの色気は。
ほんの冗談の心算だったのに、してやられた敗北感に美和は深い溜息を吐くのだった。













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