[携帯モード] [URL送信]
2。








買い物に出かけることになりました。

どうせ出掛けるなら、スーツとかお布団とか冬物をクリーニングに出したい。洋服も紙袋に纏めてあるし、一人だと往復する量だったけれどふたりで運べば問題はない量だ。正直人手があるってありがたい。
軽く化粧して、バックに財布と携帯を入れる。あと、車のキーも鞄に詰め込んだ。クリーニングの荷物もあるし、車でショッピングモールまで行ってしまえば早いだろう。この男と電車に乗るのは少し環境に慣れてからにしよう。



荷物を抱えてから気付いた、男の靴がまだ半乾だった。あろうことか、彼は靴も穿いていたのだけれど、残念ながら水没していたのだ。ドライヤーで乾かしてみようか、それともどうしよう。この男が穿けるような靴、持っていない。あると言えば、ビーチサンダルかクロックスなんだけれど。色的にクロックスは黒で大きめだから履ける…かな。



『……申し訳ないけど、コレ履いてもらってもいいかな』
『何でも良い』



玄関で、すっとクロックスを差し出すと特に気にせず足を通した。少し、踵が出ているが勘弁してください。意外にも文句もなく重いほうをさり気なく持ってくれた男は、フロアを見回していた。その合間に、低めのヒールを履いて荷物を抱えて扉を閉める。
荷物を抱えなおして、男を呼んでエレベーターのボタンを押す。



『これは何だ』
『エレベーターっていって、上下に動く移動するための機械』



電子音が鳴って、扉が両サイドに開いて中に乗り込む。ふーん、と男もついて来たので扉を閉めた。1階を押して直ぐにロビーに到着する。便利だな、といった男を促してエントランスを抜けて併設されている駐車場に向かう。
季節は移ろいで新緑豊かだ。植え込みは綺麗に揃えられ、華も躑躅が咲いていた。通りを抜けて、愛車の止まる駐車場に着く。ピッとドアのロックを解除して、後部座席に荷物を積める。男の荷物も一緒に積めた。



『これは』
『これは、自動車って言って燃料を入れると車輪を駆動して動かす乗り物です』



愛車は、ビートルの黄色です。マルッとしたフォルムにちょっとレトロな感じがいたく気に入っている。車体の色は黄色ですよ。一目惚れして買った愛車は休みの日にしか活動しないのだが、ちゃんと洗車も定期的にしているし車内だって綺麗だ。シートはレトロな革張りに替えているし、ハンドルだって艶々の木目調だ。
車の周りを見ていた男は、ドアを開けて内装を確認している。まぁ、異世界人なんだからこうなることも分かっていたが、どんな世界なんだ。エレベーターはないし、自動車もエネルギー源が違うらしい。ほぼ金持ちが何らかの動力源(主に動物らしい)に馬車を繋ぐタイプだという。



『へぇ、キミの世界は車が発展してるんじゃないんだね。こっちはほとんど車や電車っていう乗り物が発展しているよ』
『この世界は科学が発展しているんだな。興味深い』
『便利だけどね。ほら、立ち話もなんだからそっちに回って座席に座って』



車を囲んで話すのもなんだか変な感じだ。どうせ、車に乗っている時に話す時間なんてたくさんある。わたしは助手席に彼が座るのを確認してから、運転席に座った。ちゃんとシートベルト閉める様にいうが、しぶしぶつけてくれた。(ちなみに少し説得に時間がかかった)気を取り直して、エンジンを掛ける。ミラーも位置を確認して、ギアをドライブに合わせて、ゆっくりとペダルを踏んだ。


『じゃ、行くよー』


乗るや否や、座席を後ろまでずらして間隔を広げる男に唖然としたが、シートベルトつけてくれているだけで文句は言えない。後ろの荷物が潰れているんだけど、まぁクリーニングに出すんだし問題ないか。長い脚を伸ばして、ゆったりと倒したシートに踏ん反り返っている男はちょっと眩しそうだと感じだ。


そういえば、欧米人って瞳なども色素が薄いから目を保護するためにサングラスしている人が多いんだっけ。そんなことも聞いたことがある。美和は、自分は使わないけど車に飾ってあったサングラスを男に渡す。



『眩しそうだし、使う?』
『…』



無言で受け取った男は、サングラスを掛けたようだった。ミラーで確認すると、彫が深いからサングラスも似合っている。しかし、短髪、ピアス、刺青、サングラスというセットは結構堅気じゃない人に見えるんだが、余計なことをしただろうか。
というより、普段はどうしているんだろうこの男。あ、そういえば帽子が合ったんだ。


『言い忘れていたけど、白地の帽子が湯船に合ったよ。びしょ濡れだったから、今から行く洗濯屋さんに出しておくからね』
『…そりゃ、どうも』


数分車を運転して、目的のクリーニング屋さんに到着した。ウィンカーを灯して路肩に駐車する。男には待ってていいから、といって数回に分けてクリーニング屋さんに荷物を運ぶ。一週間後に出来上がると引換の紙を貰って、男の待つ車に戻る。



『お待たせ。じゃぁ、今からショッピングモールに行こうか』
『…任せる』
『あはは、キミは異世界だっていうのに動じないね。ちょっと車で走っただけだけど、結構街並みも違うんじゃない?』
『…まぁ興味深い』
『ふふふ、目的の場所まで20分位だから色々話していこう』



車を発進させて、車道を走る。まだ世間はゴールデンウィークに入っていない人も多くいる。比較的車の行き来も順調だ。広々とした助手席に座る男に、他愛のない話をする。
今の時期こちらの世界では、長期休暇があること。そして例に漏れず美和も2週間休みだってことを伝えると鼻で笑われた。おい、何処にそんな笑う要素があった。



『キミは意地が悪い子だね。まったく、何が可笑しいのかちゃんと言葉に出してよね』
『…おれの勝手だろう』
『まっ可愛くない子!いいけどさー、まぁ勝手に喋るから気になることが在ったらちゃんとストップ掛けるのよ?』



返事が無いけれど、その後も車のこと、相場、そしてそれ以外の乗り物のことを話した。電車、飛行機、船、それぞれが独自の文化を築いて現在結構ハイスペックだという事を話した。そして、忘れてはいけないナビのことも説明しておいた。この国は機械の端末などに現在地を衛星から確認させて、方角など行きたい場所に行けるようにもなっていると話した時男は少し興味を持ったようだ。



『…この世界には磁気や磁場はないのか』
『磁気?一応あるよ、方角は東、南、北、西でキミの世界とも違いはないかな?』
『…おまえの国では磁場のトラブルはないのか』
『いや、磁場って言っても方角が狂う樹海とか、魔の三角地帯とか言われる場所はあるけど…どうして?』
『おれのいた世界は磁場が多い。磁力を頼りに方角を進まなくてはならない時がある。この世界はそういう概念がないんだろう』




考え込むように、男は言葉を続けた。どうやら、世界は4つの海に分かれていて、東西南北に別れているのだそうだ。そして、世界を別つ壁と航路が在って、それが“レッドライン”という強大な壁に、“グランドライン”という磁場が狂ったというか謎な海が存在するという。ひとつひとつの島に磁気が在って、磁石のようなものに磁力を記憶させてその方角に進むのだという。


そんな、磁場がたくさんの世界では機械が発展したくても出来ないだろう。磁場によって機械は故障しやすいし、飛行機なんて墜落しそうだ。そして、どうやら特殊な世界だから、発展したのは“船”だそうだ。
そういう世界であれば、この世界とは異なるのも仕方がない気がする。そういえば、最初に海軍や海賊だとか言っていたのは世界で一番有名なものなのかもしれない。
淡々と喋る内容に、世界の違いを見た気がしてゴクリ、と息を飲む。



『…ちなみに、キミはどうして海で溺れていたの?』



ちょっと、聞いてはいけない内容だったかもしれない。
けれど、そんな特殊な海に溺れるなんて海を渡る航海者かなにかでないと溺れないのではないだろうか。しかも、なんていうかこの隙のない男が溺れるって違和感が在り過ぎる。何でも卒無く熟しそうだと思うのだが。



『ああ、おれは海に嫌われているからな』
『…は?』
『運悪く海軍の艦隊に囲まれてな。突破したはいいが、天候最悪でサイクロンが発生するわで船員が海に投げ出されたから咄嗟に能力使って、こっちに来た』
『……あの、ちょっと良く分からない単語が多数出て理解できないんだけど』



運転しながらハンドルを変な方向に切らなくて良かった。下手したら事故だ。冗談じゃない。というか、良く分からない単語がいっぱいで理解できないというか、理解したくないというか、結構な爆弾発言したと思う男は飄々としている。
そして、タイミングがいいのか悪いのか目的としていたショッピングモールに到着したのだった。もう、一旦会話は終了として、駐車場の券を取って大型の立体駐車場をぐるぐる登っていく。空いた所に、バックで駐車した。
エンジンを切ると、隣の男は声を掛ける前にさっさとドアを開けて外に出ている。まぁ、良いけど。


鞄を掴んで、車をロックする。此処は立体駐車場だから連絡通路の階に一旦登ってショッピングモールに入った方が早そうだ。日本語表記と共に英語表記もしてある看板を見て、サングラスを掛けたままの男に声を掛ける。この階より一階上ると言うと、男は踵を返した。駐車場は室内だが外壁は下半分で、上半分は外が見える。興味無さそうに言われるが儘進んだ男は、初めて見るであろうエスカレーターに普通に乗った。え、もうちょっと驚くもんじゃないのっていうか、順応速いでしょ!



『遅い』
『えええええ!?』



順調にエスカレーターで一階上まで来て、連絡通路の看板を見る男。そういえば、ちゃんと英語表記しているとはいえ、判断早すぎじゃないか。言うなれば初めてきた場所な筈なのに美和の前をずんずん進む。
ガラス張りの連絡通路を抜けると、其処は少し広場の様になっていて、真ん中は下から上まで吹き抜けの造りになっていた。堂々と進む男に慌てて追いついて、美和はちゃんと目的を告げないと迷子になると思った。主にわたしが!



『キミ、ちょっとひとりじゃないんだからちょっとくらい待て!』
『とろい』
『女にしては歩くの速いほうだよ!…じゃなくて、お金はわたしが持っているからさっさと行かれても困る。まぁ、キミの生活必需品だからキミの好きなもの買ってくれていいんだけどさ』
『……』



返事はないけど、了承してくれたようで歩く速度が緩くなる。
まぁそれで少しほっとして後ろをついていく。メンズのフロアも同じ階だし、好きなものを買ってくれればいい。買い物、ひとりでしたいなら席を外そうかとも聞いてみたが、別にという返事だったので一緒に廻ることにする。
一般の日本人より大きいから、頭が飛び出している男は後ろから見ていると面白いほどに注目されていた。一歩後ろを歩いていると、左右に別れた客の皆がサングラスを掛けた男を見ているのが分かる。そりゃそうだろう。外人さんが歩いている上に、一般人のオーラじゃなく言うなれば目を引くオーラがある。それに加えて刺青に足が長いしスタイルもいい。日本人としては羨ましい限りだ。



しかし、ひとの注目もなんのその何処吹く風である。
颯爽と歩く男は適当にシャツ数枚とパンツを数本、上着も数着買った。代金払うのは美和なのだけど、店員さんがサングラスの男に注目していて可笑しかった。その他にもスウェットのようなものや靴下や、靴を買った。うん、お洒落というかシンプルなものが多いけれど基本センスがいいのだろう。女の買い物とは違って、サクッと用を済ましてしまう辺りどこの世界でも男の子は結構買い物早いのかもしれない。
下着も買いに行かないと、と思ったけれど結構な荷物なので美和は財布を男に預けて一旦車に戻ることにする。



『荷物嵩張るから、一旦車に荷物置いて来るね。キミは好きに買い物してて良いから』



時計を見ると十二時半を廻っていて、お腹も空いてきた。短いとも思ったが時間かからないそうなので15分後に最上階のエスカレーターの近くで集合にする。その後、一緒にご飯食べようとも声かけた。ちょっと、言葉は大丈夫かなとも思って、聞いてみたけど数字と値段を合わせる事なら出来るという事で追い返された。



『じゃぁ、15分後に最上階ね』
『…ああ、』



英語で喋っていると結構遠巻きで指差されている。それだけ、このサングラスの男は目立つんだろう。さて、男が買い物している間に荷物を車に入れてきちゃおう。











[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!