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5。







取り敢えず、美和は男に提案した。
ごはん、食べませんかと。少し目を見張った男は、黙って頷いた。正直、お腹も減っていたし、これ以上話すのであれば一旦区切りをつけた方がいいだろう。というか、頭がついていかないというか、理解はしているのだが追いつかないというか。現実逃避を挟まないとやっていけないっていうのも本音である。

熱も下がった様で、男にお風呂はどうするかと聞くと入りたいそうだ。海で溺れていたらしく、昨日簡単にシャワーはしたが熱で汗もかいて気持ち悪いらしい。しかし、美和の家には男物の下着もなければ服もない。この男が来ていた服は干してあるが、この天気なら昼には乾くだろう。男には悪いが、バスローブでいてもらうように話す。パンツは入っている間に洗濯して乾燥機に掛けて置けばすぐに乾くだろう。

風呂に入った男の下着は洗濯機に入れて回す。うーん、見ず知らずのカッコいい男の下着を初対面…のようなもので洗うのはどうかと思うが、考えるだけ無駄だ。外から、男にバスローブを置いとくことを声かける。バスタオルも出して、取り敢えずこちらはこれで大丈夫だろう。

キッチンに戻って一通りご飯は出来ているから、男が寝ていたリビングの床に敷いたラグマットと布団を片付ける。布団はベランダに出して干して、マットは洗濯してしまおう。
部屋は汚いわけではないが、仕事で掃除機を掛けていなかった為、ご飯の前に掃除機を掛けてしまう。うん、健康的な気がする。クイックルワイパーも掛けて、クッションもベランダに干した。リビングのテーブルを拭いているところで、男はバスローブ姿で出てきた。
あれである。そう、水も滴るなんとやら。


「…Thank you for a shower」
「You're welcome」


ほとんど現実逃避していても、まさにその人がいるのだから何とも言えない。
直視しない様、少し視線を逸らしてリビングに座るよう促す。
ご飯を運んで、あ、と男にお粥もあるけどどうするか聞くと何でも良いそうだ。食べれないものもないそうで、冷えたスポーツドリンクを男に差し出した。
そういえば、外人というか異世界人は箸を使えるのか。恐る恐る尋ねると、使えるそうだ。なんて万能な異世界人だ。

取り敢えず、正面に向かい合ってごはんにする。
男は器用に箸を使ってサラダを食べている。何となく、非現実な人物であるので何となく食べているだけでも不思議な気がした。同じ、人間であると実感できたというのか。
お粥も文句なく食べてくれて、ご飯は綺麗になくなった。
飲み物を一口飲んで、男は何だこれはと聞いてきた。まぁ水分補給に欠かせない栄養素が入っているお得ドリンクと説明した。それ以外に説明できん。
そして、意外にも律儀にこの男は「美味かった」と言ってくれた。人相悪いし刺青を入れているけれど、悪い人ではないらしい。


ピー、ピー、と電子音が鳴った。洗濯機が終わったんだ。
食器を片付けて、洗面所に向かうが男も一緒に付いてきた。これは何だ、と言われたので洗濯機ですと返した。これ一台で洗濯、すすぎ、脱水、乾燥など出来る道具だと伝えるとへぇ、と機械をしげしげと見て回っている。いいけど、別に。乾燥機で乾いた下着を男に渡すと、意地悪気に笑ったのを見て咄嗟に下着を投げつけてやった。

くつくつ笑った男に、美和は溜息を吐いた。立ったついでに家を案内する。洗面所とお風呂は良いとして、トイレにリビング、ベッドルーム、仕事部屋を案内する。
一通り案内が終わってリビングに戻る。男は、面白そうに言った。



「What is the intention?(意図は?)」



そんなのは決まっていた。
突如現れた異世界人を放り出すほど無責任ではない。しかも、溺れて息を吹き返したばかりの時に桶で殴ってしまった負い目もある。もう、この際最後まで付き合ってしまおうと思ったのだ。どうせ2週間休みだし、美和はこの非現実な状況を他の人に話したとしても信じて貰えないだろう。
お金にも困っていないし、乗りかかった船だ。男に縁がない生活をして5年、独り暮らしをして7年。得体の知れない男を養うことに決めました。
もう、考えたって仕方ない。意図なんかない。ただ、少し異世界の話が仕事以外で初めてワクワクしたのだ。だから、それだけだ。


「I am interested. Then does not it become a reason?(興味がある。それじゃ理由にならないかしら)」


そう答えると、男は笑った。初めて、少し目元を緩めた表情を見た。わたしもつられて笑って、男に手を差し出す。欧米人は、挨拶には握手だろう。いや、異世界人だけれども。


「I am美和 . Thank you from now on.(わたし美和っていうの。これから宜しくね)」


男は、面白そうに笑った。
差し出した手を、男は自分の手を同じように合わせる。


「…Taken care of. I’m Trafalgar Law(…世話になる。おれはトラファルガー・ローだ)」













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