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4。




カーテンを閉めていなかった所為で、辺りが明るくなって8時には目が覚めた。
美和は、欠伸を一つして突如現れた男を見るが、先刻と一緒の場所に寝ていた。
夢じゃなかった。ちょっと、寝て起きれば有り得ない現状を打破できるかと思ったが、そうはいかないようだ。
寝て、少しすっきりした頭で今後どうしようかと考える。英語を喋っていた所を見るとアメリカとかイギリスとか英語圏のヒトだろう。身分証とか何も持っていなかったから、自国に戻るのは大変そうだ。この場合、警察に保護してもらった方がいいのかな。突然天井に渦が巻いてこの人が出てきました、っていっても信じて貰えなそうだが。


「……まぁ、この人が起きてからかな」


よいしょ、とソファーから起きて洗面所で身支度を整える。ロールアップジーンズにタンクトップと白いシャツを羽織って、洗濯機を覗き込む。そういえば、洗濯物入れっぱなしだった。ハンガーに洗濯物の皺を摂るように叩いてから干す。天気も良さそうだから、そのままベランダに直行する。部屋干ししていた分も全部外に干した。
その際に男を見るが、顔色は昨日より良さそうだった。ベランダから戻って、冷えピタを額から外して手で熱を測る。うん、平熱の様だ。念のため体温計を挟んで体温を測ってみたが、37.3℃と微熱になっていた。良かった。溶けてしまっている保冷剤を新しいものに取り換えて、一息吐く。


美和は休みの日初日はいつも昼過ぎまで寝てるんだけど、いつものように寝るのは出来ない。まぁ、時間があるのは良いことだ。この男が起きないと何も出来ないので朝ごはんでも作るか、とキッチンに出向く。あまり使われていないシステムキッチンは同期が準備してくれたおかげで一通り使える様になっている。一人だと面倒臭くて使っていなかったが、病人もいることだしちゃんとご飯を作ろうと思う。むしろ、息を吹き返したばかりの人間を殴って意識を失わせてしまったので罪悪感があったから、負い目がある。黒いシンプルなエプロンを着けてサラダに、一応お粥を作る。アメリカとか欧米人ってお粥大丈夫だろうか。梅干しはやめた方が良さそうだし、中華粥にしとく。一人用の土鍋は1人暮らしには必須だ。一人鍋には最適なのだ。それだけじゃ寂しいのでウインナーを茹でて卵焼きも焼いた。コンロを止めて、手洗いをする。


男は起きただろうか。
キッチンからひょいっと男を窺うと、布団が動いたのが見えた。
起きたのだろうか、慌ててパタパタとリビングに移動する。目が覚めたらしい男はむくりと上半身を起こしているところだった。
なんと声を掛けたらいいのか分からず戸惑っていると、男は顔を美和に向けた。


「It is somehow yesterday.(昨日はどうも)」


そういってニヤッと笑った男に、美和は悟った。ぶっちゃけ桶で殴ったことを覚えていないと良いな、なんて都合のいいことを考えていたのに。
蒼褪めて慌てて美和は土下座した。ぶっちゃけ、溺れて苦しんで体力失くした人の頭を殴るなんて、外道にも程がある。突然、現れたとか不審者だとか関係なく人としてどうかと思うことをしてしまったのだ。


「Though it may not be a problem I'm sorry and apologizes, and to finish, I really reflect. I'm sorry.(ごめんなさい!謝って済む問題じゃないかもしれないけれど、本当に反省しています。ごめんなさい)」



もう、文章とかぐちゃぐちゃな気がするが咄嗟に英語で謝罪する。本当に、下手したらこの人は死んでいたかもしれない。突如現れたとしてもこの人も、もしかしたら何も知らずに災害とかに巻き込まれた人かもしれないのに。咄嗟にしてしまったとはいえ、考えなしにも程がある。しかし、男は何も言わない。
土下座したまま、言葉を続ける。


「Do not a body and the brain ache?(体や頭は痛みませんか)」


一瞬のち、男はくくく、と笑った様だった。
恐る恐る顔を上げると、男は楽しそうに笑っていた。きょとんとして、美和は男を見詰める。片膝を立てた男は、其処に腕をやって品定めの様に頬杖しながら美和を観察するように見た。
緊張する男の視線に、背筋を伸ばして正座の姿勢を正す。ちょっと、男は上半身素っ裸なのだし無駄に駄々漏れの色気を引っ込めて欲しいと思う。

ぶっちゃけ、仮面の女も形無しである。会社では完全無欠を目指しているのに非現実なことが次から次に起こると表情を繕っていられない。まぁ会社ではないし自宅で仮面を被ることなどしたことなかったから、突然の非現実の男に見られている状況を打破できる気がしない。
綺麗というかカッコいいというか、色気駄々漏れの男は、やっと喋った。


「As for the woman who hit my head, you are the first time.(おれの頭を殴った女はお前が初めてだ)」
「…I'm sorry」


反論の仕様もありません。
美和は意地悪そうに笑う男の視線と言葉が胸にグサッと刺さる。
男は、ふと自分の状態を見て更に笑みを深めた。


「Besides, it is the first time that I am unclothed by a woman.(しかも、女に脱がされるのも初めてだ)」
「………I'm sorry」


再度土下座したのは言うまでもない。
どうやらこの状況を楽しんでいる様子の男は、最初に向けた不信感というか疑心を解いている。たぶん、取るに足らないと判断されたのか分からないが暴力を振るったり話が出来ない人ではないようだ。理解というか飲み込みが早いと言うか、殴った人物が美和と理解しているようだし、熱を出して看病してもらったのも状況で判断したらしい。
頭の良い人というか回転が速いのか、自分に置かれた状況を瞬時に理解したそうだ。



しかし、彼が言うには海で渦に遭ったらしい。気が付いたら、此処に居たとのことだ。
つまりは、彼は渦に巻き込まれたようだ。彼も言うなれば渦に巻き込まれた被害者であって、何が起きたかは分からないそうだ。
美和も昨日の状況を話す。お風呂に入っていたら、天井に渦が出来て其処から男が出てきたことを正直に話す。普通だったら信じれないだろうが男は意外にもそうか、といって納得したようだ。え、そうかで終わる話じゃないんだけれど。



男は、ジッと美和を見た後、此処は何処だと聞いてきた。そうだろう、現在地は把握しないとと、慌てて国名を言う。見る限り、アメリカというか欧米人というか、明らかに日本人ではない。



「…It is Japan. It is a city called Tokyo, Japan here.(日本です。ここは日本の東京という都市です)」



一応、日本といえば通じるだろう。有名とは言えないが、オリンピックなど世界加盟国でもあるからこれで十分だろうと男を窺うと、顎に手を当てて何か考えていた。
え、もしかして日本って有名じゃないのだろうか。


「There is not what I heard. Which sea does here face?(聞いたことないな。ここはどの海に面している)」
「…Yes, do not you really know it though Japan is an island among the Sea of Japan and the Pacific?(日本は日本海と太平洋に囲まれた島国ですけど、本当に知らないのですか)」
「……」


黙ってしまった男に、美和は戸惑う。もしかして、部分的な記憶喪失なのかもしれない。どうしたらいいのだろう。もしかして、昨日桶で殴った所為で記憶が吹っ飛んだというならシャレにならない。
その後も、この世界の年号や名称、世界情勢に主な世界の大国の名を聞かれた。必死になりながらも男の問いに答えるが、どれも聞いたことがない様だ。それは変だ。男も変だと思った様で、逆に海軍や海賊、世界貴族や世界政府加盟国、など知っていることはないかと聞かれた。正直、何の話か分からない。けれどもちゃんと男に話した。
日本には海軍というか、海上自衛隊というものはあるということ。日本の海域に海賊はいないこと。そして、世界貴族という概念はなく大金持ちなどはいるが、良く分からないこと。そして、世界政府加盟国というのがこちらの国の名前には当てはまらないこと。


少し、沈黙した。
この人は冗談を言うタイプに見えないというか、状況判断時に嘘をいう人には見えない。
男は小さく息を吐いて、美和が非現実すぎて口に出せなかった言葉をズバッと切り出して来ました。



「I am like the different world somehow or other here…(ここはどうやら違う世界のようだ)」




29歳、美和日本人。
まさかの異世界に、非現実に拍車が掛かり過ぎてただ茫然と男を見詰める事しか出来なかった。







Pardon


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あきゅろす。
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