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ず。



美和はルンルンと洗濯物を拾い上げて手に抱える。買った歯ブラシを出して、歯を磨く。さっぱりするなーと支度を終えて扉を開ける。二度寝をしている男に、美和は「お風呂ありがとう」と話しかけた。


「…ねむい」
「ろ、キャプテン、寝るの遅かったの?」


男は不機嫌そうなまま寝転がって、ジロリとわたしを睨む。なんだ、たじろいたわたしは正しいと思う。寝起きが最悪なのは変わらないな、と何処か遠くで考えているとベッドがぎしりと音を立てた。ローくんはベッドサイドに座って、グラスがねぇと低い声を出していた。


「あ、なんか割れちゃってたから一応片づけたんだけど…」
「………ああ、そうか」


欠伸を噛み殺して、ローくんは何か思い当ったのか執着することなくそのまま立ち上がる。
美和を見て、口端を上げたローくんはそのまま距離を縮めてきた。わたしは嫌な予感でじりじり後退していたが、後ろに壁が当たってもう退路がないことを知った。美和は目の前のローくんを見る。じろじろ見られてわたしは生きた心地がしない。似合うって可愛らしくこの男に尋ねるほど自分は勇者じゃない。しかも今までサイズが違くともデザインは変わらないのだから、似合わないとはいわれないとは思うのだが。


「…ぴったりだな」
「お陰様で。準備してくれてありがとう、キャプテン…」


何を言われるか、美和は引き攣った笑みで一応お礼を言った。一瞬眉を上げて、楽しそうにニヤついたローくんに、わたしは抱き込んだ服を一層強く抱きしめた。怖い。


「な、なに?」
「お前、そういえば昨日もそう言ったな」
「?」


目の前でニヤニヤする男に首を傾げる。昨日と言われても記憶にないのだが。
何が言いたいのか、美和は目を瞬いた。ローくんは上から美和を覗き込んで、首元をくいっと引っ張った。つんのめったわたしはローくんにぶつかる。しかし、ローくんはわたしの頭に何か置いて離れて行った。



「まぁ、好きに呼べばいい」



踵を返した男は、そのまま浴室に消えてしまう。美和は思いついた。
呼び方のことだろう。だって、きちんと乗船したのに、なんかローくんっていう訳にはいかないもの。下っ端のわたしはちゃんと立場を弁えなきゃ。ローくんも好きに呼べって言ったし、キャプテンって言おうって思ったのだけれど。


そういえば頭になんか乗っかっている。なんだ、と思ってそっと頭に触れると失くしたと思ったゴムが在った。そうか、寝ていたとき外れたんだ。ペンギンくんの言葉通り、とりあえず在って良かった。美和は手ぐしでポニーテールにする。


美和はローくんに声を掛けて先に部屋を出ることを扉の前で言った。返事はなかったけど、わたしはそのまま部屋を出た。もう日は昇っていて、ひとの声が聞こえる。美和は洗濯室へ向かう。あの洗濯物事件以来、部屋に溜めないで洗濯場に汚れを分別して出してくれるようになった。美和は少ない汚れ物を手洗いして洗濯物をまとめて洗濯機に放り込んだ。前回に比べれば量は大したことがない。柔軟剤も買ったし、洗濯物を回してから食堂に顔を出した。



「おはようございます」


ペンギンくんは既にいて、比較的元気な人達から返答を貰う。
酒が残ってテーブルに突っ伏しているものもいる。此処にいる人たちは夜間見張りや動力を管理していたらしい。美和は苦笑しながら、みんなに昨日は楽しかったとお礼を言った。途中でつなぎも似合っていると褒めてもらって、嬉しくなる。上機嫌で、甲板に転がっていた酒樽とかを片付けようと甲板に出るともう一掃されていた。
厨房に戻って、手伝うことないか聞くと感激された。


「ここの連中、料理壊滅的なのよ!!助かっちゃうわ!!」


手を組み合わせて、くねりが入った男性(女性)を見た。この船のコックで、オネェ言葉のモデルみたいなお兄さん、いやお姐さんだ。
昨日挨拶をして仲良くなったミネルバさんだ。


「ミネルバさん、このジャガイモと玉ねぎを皮向けばいいですか?」


袖を捲って手を洗いながら尋ねる。そういうとこの包丁でお願い、と大柄のボールに入ったジャガイモと玉ねぎに向かい合った。ミネルバさんはテキパキとオーブンに生地を入れている。今日はパンを焼くんだ、と嬉しく思いながら手元を動かす。
朝はコンソメベースのスープに、パン、ベーコンエッグのようだ。サラダも大量に作ってミネルバさんと楽しくお話をした。昨日の料理も美味しかったけれど、何でもござれのようでミネルバは料理が大好きなようだ。何だかんだ突っ伏している船員にだらしない、と文句を垂れつつも胃に優しそうなメニューで微笑ましい。


「ミネルバさん、ドレッシングこれでいい?もうちょっとレモン入れた方がいいかな?」
「どれどれ、ん、もうチョイ足して。美和ちゃん、それが終わったら船長とまだ寝ている奴ら呼んできてくれる?」
「了解です!」


レモンをチョイ足ししてカシャカシャ混ぜる。ドレッシングのボトルに入れて、簡単に洗い物をしてから借りていたシックな黒いエプロンを外した。ちなみにミネルバさんはピンクのフリルをあしらったエプロンを着けている。ミネルバに行ってきますと挨拶をして、厨房を後にした。



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あきゅろす。
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