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「私は、リリーよ。この一座で踊り子をしているの」



砂漠で倒れていた美和を発見して助けてくれた女性は、リリーと名乗った。
どうやら旅芸人の一座の筆頭踊り子で巷じゃ有名らしい。そのリリーの所属する一座は、芸を披露して街を転々と移動している最中に運よく美和は拾われたということだ。
我ながらつくづく幸運だ。



「わたし、美和と言います。あの、本当にこの一座に居てもいいんですか…?」



わたしの「此処が何処」問題発言で、リリーは団長を呼びに行ってしまって一時大騒ぎになった。
団長とその一座の仲間が、美和の前に集まった時は驚嘆した。どうやら、この一座は孤児や行き倒れを拾った経験が多々あるらしい。現に、リリーや数人はそういう経緯でこの一座にいるらしい。



団長は、強面の大男だった。
正直ビビって泣きそうになったのは内緒だ。
しかし、見かけによらず熱い心の持ち主で、わたしの「此処何処発言」に「それほど酷い目にあって記憶が…!」と勘違いした涙脆い団長はこの一座に居て生活すればいいと快く迎え入れてくれた。



(うう…ッ、ごめんなさい!)



あまりの善良な人を騙すのは居た堪れないが、本当のことを話すのも大変夢物語なのでこの方が都合がいいのも確かだ。
結局、わたしは『記憶喪失』という都合のいい立場を利用させてもらうことにしたわけである。



「いいのよ。だって、貴女見るからに悪い人に見えないし」
「(いや、わたしが言うのもなんだけど…もっと疑った方が…!)」



大変心苦しい美和は、何度も心の中で謝った。出来る限りこの一座に貢献しようと誓う。
あっけらかんとしていて、そしてどこか温かい。この一座は皆とても優しい道徳的な人たちが揃っていると直ぐにわかる。
おう、嬢ちゃん起きたか、とかもう安心しろ、とか代わる代わる声を掛けてくれるのだ。
わたしは本当に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちでいっぱいになった。



見ず知らずの女を拾ってくれて、しかも居場所をくれるなんて。
だいぶ熱傷は落ち着いてきた。わたしは焼けると真っ赤になるタイプで、黒くはあまりならない。火傷が酷いと水膨れになるのだ。
たぶん、この分だと足と腕の一部が水膨れになるだろう。
兎に角、冷やすことだ。ビーチサンダルが大好きだが砂漠では不適合だったようだ。



***



そんなこんなで、一時進行を中断していたが再出発へと動き出す。どうやら寝かされていたここは荷馬車の中だったようだ。だからぎこぎこと軋んだ音が鳴っていたのかと納得する。
目的地はオアシスを中心とする街だという。



「本当に、ありがとうございます。わたし、なんでもやりますから。リリーさん、えっと…」



わたしは荷台に乗ったまま目的地に連れてってもらえるのだが、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。わたしはこの一座に安心した所為か、ぐうと盛大にお腹が鳴ってしまったのはつい先程の事。皆に聞かれてしまって恥ずかしい思いもした。出会って直ぐに行き倒れて、助かったらお腹が鳴って、わたしって…。その時団長はパンをくれた。
昼ごはん食べていなかったし、砂漠で脱水になり体力消耗してしまったわたしは使い物にならない。せめてごはん食べてくれば良かった。くすん。



「なぁに。いいわよ、それ食べちゃいなさいよ」



そうは言われても。恵んでくれたパンを小さく千切って、頬張っているのだが。
如何せんリリーの視線が刺さるようだ。何かついているのだろうか。
わたしは口の周りに手を持ってく。よし、何もない。



「やっぱり…」
「え、」



途端、リリーは美和の目の前でベールを取った。
ずいっと、美和の前にくるとにこっと笑った。わお、魅惑的な笑顔でドキドキしてしまう。リリーの美貌が全面に晒されて、わたしはテンパった。
なんだろう。主人公が目を回していると、リリーはわたしの手を握った。その際にあと少しのパンが落ちってしまった。



「私たち、似てるのよ!」
「…?」
「ほら、目元とか全体的に似ているわ!髪の色と、瞳の色が違う位じゃないかしら!」



そんな、まさか。
美和は純日本人で髪は黒で、瞳も黒だ。身長は156pで体重は40Kgくらい。胸は小さいし、特にいたって普通の日本人だ。顔は、日本人の顔だからベビーフェイスと良くアメリカでは言われていたが。



マジマジと目の前の女性を見る。リリーは、瞳は綺麗な青。ベールを取って現れた髪はこれまた綺麗な金髪で。キラキラとした髪は簡単に纏められていて、被り物で少し乱れた髪が色っぽい。身長もわたしよりおっきいし、胸もおっきい。ナイスバディ―だ。一言でいうと、お色気の美人さんだ。



「似てません!ああわわわあわ、リリーさん美女!うらやましい!」



わたしは露わになったリリーさんの体に悩殺された。綺麗なのは綺麗。さすが踊り子、ナイスバディ―です。わたし、美女に弱いんです。美醜に拘るつもりはないんだけど、やっぱり綺麗なものは心臓に弱い。



「あら、そうかしら。美和ちゃん、今いくつ?」



尊敬の眼差しを向けるわたしに、リリーは照れ笑いをして質問してきた。この手の質問は、散々アメリカでもされたけれど。皆同じ態度をとるのだ。もう、慣れたけれど、言い辛い。日本人って、欧米人に比べるとなんて童顔なんだろう。
ちら、とリリーを見ると、答えを催促された。



「…18歳、デス」
「…うっそ。14、15歳かと思った」



ふふふふ、東洋人ですもん。しょうがないんですよ。
わたし、アメリカで散々言われましたもん。わたしがアメリカに渡ったのは両親の転勤が切欠だったのだけれど。意外にも個性を主張できるフリーダムな空気がわたしは気に入っていた。
日本じゃできないことを積極的にやっていったら、結構重役な研究チームに派遣されたりと、中々貴重な経験をさせてもらった。



そんな中、日本人でバリバリ仕事してたら、やっかみも散々でしたよ。人間皆同じ。出る杭は打たれるものなんですよ。まぁ、年も年だし。10代其処らが指示出してたら誰でも嫌だろうな。
まあ、味方も増えて、1年も経てば偏見は落ち着いたのだけれど。



しょんぼりした美和を、リリーは若く見られるのは良いことよ、とフォローしてくれたけど、なんか嬉しくない。しかも、リリーはなんと21歳でした。わたしと3歳しか違わない。やっぱり不公平だ。わたし、あと3年でそんなに成長するかな。



***



美和とリリーはたくさん話をした。
この世界はやっぱりあの世界で合っていた。
今この島はグランドライン前半の海、クウェルバという島らしい。しかも何本もある航路の一番初めの島だという。わたしはどうやら意図せずグランドラインに入ってしまっていたようだ。



むむむ、これでは北の海の情報が得られそうにない。
わたしは少しだけど、北の海に居たので、出身地ってことにしちゃった。リリーはグランドライン育ちらしい。



「そっかー、美和は北の海から来たのか。そんな遠くから遥々グランドラインへ来たのに記憶ないなら、やっぱり人攫いに遭って運ばれてる最中に荷台から落ちちゃったんじゃない?まあ、不幸中の幸いよ!」



今ある情報をリリーに話す。けれど、出身地と探している人がいる、としか言えなかった。まさか、違う世界から来ました、なんて言えない。しかも、たぶん探している人物は既に海賊というものになっているだろう。時間軸が一緒であれば、彼はもう成人を越しているはず。何故か年齢を教えてくれなかった彼は、いつも意地悪で大変だった。いやいや、けど解り辛い優しさもあったのも本当。兎に角、早く会いたい。



「あはは…、リリーわたし一応海と土地、あと海賊のたくさんいた時代ってのは分かるんだけど。基本雪国での生活しか分からないから、迷惑かけるけど教えてね」



もはやリリーの中ではわたしは人攫いに遭ったことになっている。
話すうちにだいぶ打ち解け、呼び捨てで名を呼ぶ中になった。リリーはとてもさばさばしていて、とても話しやすい女性だ。
わたしは、そんなリリーがとても大好きになった。



あと、喋っていて言葉がちゃんと通じているのにほっとした。以前、この世界に来たとき言葉が通じなくて教えてもらったのだ。わたしはこの国の言葉が英語だったとあっちの世界に帰って理解した。英語で喋ることが普通になった生活を送っていたので、自然と英語で話しかけられるとその言葉が出ちゃう。良かった。コミュニケーションは大事だから。



「ふふふ、私ね、あんまり年が近い子いなかったから美和が居てくれて嬉しい!もちろん、色々教えてあげるわ。ちなみに、この一団は芸を生業にしているから、美和も落ち着いたらわたしの踊り教えてあげるわ」



リリーは早速、ごそごそと荷物を漁り始める。そういえば此処は荷台だったのだ。簡単にステージ衣装やら、練習用の衣装、諸々出してきた。



「え゛、わたし、裏方がいいなー…、う、嘘です。嬉しいなぁ!」



リリーに人睨みされて、態度を裏返す。怖い。
わたしたちは尽きることなくしゃべり続けた。団長に、オアシスについたと云われるまで全然気づかないほど夢中になってしゃべってしまった。二人顔を見合わせて、大きな声で笑った。



前途多難だけど、リリーとこの一座に逢えて良かった!






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