13 食後の休憩もそこそこに、気乗りしてないシャチくんとベポと美和で洗濯室の扉を開けた。いつから溜めているんだろう。改めてわたしは溜息をついた。 「シャチくん、ここに洗濯板はある?あと桶も」 「ここにある」 怠そうに桶と洗濯板を持ってきてくれたシャチくんに、船員の洗い物が部屋にあるようなら持ってくるようにお願いした。すごすご引き受けてくれたのでわたしはそのまま選択の山を分けることにした。 ただ濡れてしまったものや、汚れが比較的少ないものはベポに簡単に濯いで洗ってもらってから洗濯機に放り込んだ。洗剤しかないけど、この集団は気にしないだろう。第一陣を洗っている間にわたしは煤汚れや、血の付いた服など頑固汚れとの戦いに応じた。その合間に、ベポに汚れの選別をしてもらっておく。 せっかく浴槽にお湯を張っていたのでその残り湯を使って頑固汚れと格闘する。 固形石鹸でごしごし洗い、汚れが薄くなったものを洗濯機の横の籠に入れていく。第二陣用の籠ももう一杯になって来た。ベポも仕分けが済んだら、手洗いを手伝ってくれた。 「こうやって手で洗えば落ちるんだね」 「ちゃんと落ちるよ。その泥汚れ固形石鹸でもみ洗いすれば落ちるよ」 「おおお、落ちた!」 なんて二人で洗濯ものを片付けていると、シャチが大きなゴミ袋を4つ引きずって持ってきた。呆気に取られる美和は、意地になって全部綺麗にしてやると心に誓った。 「おおー綺麗になるもんだね」 他人事のようなシャチくんは、わたしとベポを覗き見てきた。そこで一陣の洗濯が終わった合図がした。シャチくんの仕事が出来た。美和はシャチくんに甲板にロープを張ってこの洗濯物を干してくるように頼んだ。 「…人使い荒いぞ、美和」 「そう思うならもう洗濯溜めないでね、よろしくねシャチくん」 一陣の洗濯物の籠をシャチくんにわたし、ロープとかはシャチくんに任せた。しぶしぶだけどなんだかんだ手伝ってくれるシャチくんに心の中だけで謝っといた。 第二陣を洗濯機に放り込んで何回か遣り取りを繰り返すと、洗濯物の山が消えた。床が見えてわたしはベポと抱き合った。長い道のりだった、と本当に泣いてしまいたい。 「今回っているのを干したら終わりだね」 「うん、もう夜までかかると思っていたけど、夕方までで済んで良かった…」 中腰していた腰が痛い。もともとの筋肉痛もまだ残っているのに身体を酷使していたためしょうがない。あと40分洗濯物は洗い終わらないだろうから、甲板に上がることにした。ベポについていくとそこには大量の洗濯物が干してあった。はためく洗濯物は最初の方は乾いており、回収することにした。甲板に転がっていたシャチを起こして、一緒に取り込んでもらう。 「ったく、あ、これ無くなったと思ってたシャツだ」 「…在って良かったね」 ひょんな発見をしているシャチくんを尻目に、籠に乾いているものを集める。船内で仕事をしていた船員や、街で必要物品を調達していたメンバーも夕方に少しずつ集まってきた。甲板を覆い尽くす洗濯物の数に呆気に取られている様だ。 「これは、どうしたんだ」 必要物品調達グループに居たペンギンはあり得ない惨状に駆け寄ってきた。美和はあまりに凄い洗濯物の数で手を出したことを正直に言った。するとペンギンはまたやらかしたであろう船員たちをキッと睨み、大袈裟ながらお礼をしてくれた。ペンギンくん、本当に苦労したんだね。 「此処までやってもらったんだから、お前ら自分のもんくらい持って行け」 船員に鶴の一声、という感じに乾いた洗濯物の山は消えて行った。何度も船員さんがお礼を言ってくれて、勝手にやってしまったのだし自分がやりたくてっやったのだけどお礼を言われると現金なモンでやったことが報われた気がした。乾燥した地域で海風のお蔭か、乾きが順調だ。最後の洗濯物は船員皆が各自干してくれた。 「終わった…」 わたしは甲板にごろんと寝転がった。今日一日掃除と洗濯しかしなかった。達成感と疲労感を両隣にいるベポとシャチくんと分かち合う。 「まったく、おれに手伝わせるなんて…」 「ごめんってば。けど綺麗になったし、いいじゃない」 ふふふと笑うと、シャチくんも笑ってくれた。ベポも一緒に笑う。 シャチくんは、明るいけど結構人の本質を見抜いている気がする。おちゃらけていても、リリーと団長のこととか見抜いていたみたいだし、それに最初は疑われていた気がしたから本当の笑顔をみれて良かったと思う。口には出さないけど、仲間と認めてくれたのかな。 「明日、泊まっている宿に10時集合な」 「?」 わたしはキョトンとしてシャチくんを見ると頭を軽く叩かれた。 「お前、服とか色々買いに行かなきゃなんねぇだろうが!」 そういえばそうだった。掃除と洗濯に夢中でそんなこと頭から抜けていた。 呆れたような視線を受けて、わたしは笑って誤魔化した。 「荷物持ちしてやるんだから、感謝しろよ」 二カっと笑ったシャチくんに頭を撫でられる。わたしは、宜しくね、と笑顔を向けた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |