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一頻り泣いた私は、お腹が盛大に鳴ってしまった。きゅるるるる。
何この既視感。わたし、どんだけ食い意地はってるんだろう。
例の如く大爆笑されてわたしは恥ずかしくて穴があったら入りたい。
まだ可笑しいのか、ペンギンは笑いながら立ち上がった。


「何か、胃に優しいもの作ってもらおう。体調は平気か?」
「お恥ずかしながら、筋肉痛ぐらい。胃にあんま入れてなかったから水分とかのが嬉しいかも。そういえば点滴ももういらないよ。ちゃんと口から補給できそうだし」


たぶん、走り回っていた私は脱水と栄養不足で昏睡してたから、点滴で補ってくれてたんだろう。迷惑を掛けてしまった。
わたしは、ペンギンに伝えると意地悪く笑われた。


「そうだな。そんだけ盛大に腹が鳴れば、飯さえ食えば大丈夫だな」
「しょうがないじゃん!お腹すいたんだもん!あ、わたしもう平気だから一緒に行く!」


我ながら名案だ。わたしは立ち上がって、ペンギンの傍に行くが押し返される。


「……船長が、了承すればそこから出してやるよ」


もう平気、といってもこれだけはだめ、と聞いてくれなかった。
シャチとペンギンはわたしが起きたことを団長さんやローに伝えに行くと出て行った。どうやら船長は街の人達の往診に回っているらしい。
シャチに大人しくしてろよ、と揶揄されて結局、わたしとベポは取り残された。


「…ま、しょうがないか。ベポは行かなくていいの?」
「おれ、美和と一緒にいていいって!ねぇ、いっぱいお話ししようよ!おれ、話したいことたくさんあるんだ!」


円らな瞳を綺羅綺羅させるベポは、ベッドに仰向けに寝る。わたしはベポにひょいっとそのままお腹に乗っけられた。腹ばいになって、きょとんとベポを覗き込むとえへへ、と笑った白熊に美和はノックアウトされた。可愛過ぎて鼻血でそう。


「わたしも、いっぱい話したいことあるよ!」


わたしは、おっきな白熊に身体を預けて満面の笑みを浮かべた。つられてベポも笑うから、ゆらゆら揺れる暖かい身体に思いっきり抱き着いたのだった。



***



ベポとは10年前、この世界に居た半年の時に出逢った。
母熊を殺されてしまった小熊を放っておく事が出来なかった。人間のエゴで振り回されてしまった小さな命を助けたくて、わたしは一緒にいることで逆に命の大切さを学んだのだ。
難しいことを考えず、慣れないわたしは何度も引っかかれて終いにはガブリと噛まれてしまったりもした。今となっては懐かしい。



途中でシャチがポトフに、レモン水を差し入れしてくれた。わたしとベポの格好に最初吃驚して次に爆笑していた。

「話もほどほどに、ごはん食べること!あとは船長から点滴はなしでいいってさ。明日から病室出ていいってよ」

なにやらやることがあるらしく、託を伝えたらシャチは行ってしまった。わたしは、ゆっくりスープを口に運び、水分を取れる分だけ取った。やっぱり、少しづつしか取れなかったけど、食べるってやっぱり大好きだ。満足して、残ってしまったスープはベポが楽々飲み干してくれた。


「おれ、食べるの大好き!」と笑うベポの頭をなでなでする。
あの時の小熊は今やこんなに大きくなっている。「あい、」と言葉を放った時は吃驚したけどなんでも頑張れば出来るようになるもんね。


ベポは、必死で言葉を覚えて、スパルタなローに体術も叩き込まれたようだ。「あの時のキャプテン、…怖かった」ぶるりと語りながら震えるベポに可笑しくて笑う。わたしは相槌を打ちながら、わたしもローに言葉を教わっている時何度も怒られたのを思い出して喋る。


「この間なんて、キャプテン読書の邪魔されたからって、チンピラ数人実験体にしちゃうし」


もう大変なんだよね、と笑えないことを笑って言うベポ。わたしは乾いた笑みを浮かべ、ローくんならやるな、と遠くを見た。わたし、何度実験体と言われ虐められたことか。
話は大半がローくんが絡んでて、ベポは本当にローくんのこと好きなんだなと思って微笑ましかった。うん、と相槌を打って笑って、時に驚いたり、旅の話はとても不可式でけれど楽しそうな船旅をしてきたようだ。


「それにね、この海に入るのが山ってのはビックリしたよ」


と、時化で荒れた航行の中このグランドラインに入った時の話も教えてくれた。そして航行の途中、貴族の敵船に遭い返り討ちにしたこと。そして、グランドラインはじめての此の島に、因縁吹っかけた貴族が居て戦う予定だったこと。わたしの匂いがしたこと。救出へと繋がる道はなんとベポの一声だったのだ。


「ベポ―!ありがとう、本当にありがとね!」


わたしは、運がついていた。っていうか、わたしの匂いってそんなに匂うのかしら。結構ショック。わたしはクンクンかんでみるが良く分からなかった。


「ベポ、わたし、そんなに匂うかなぁ…」


ちゃんと毎日水浴びしてたんだけど。しゅんとしたわたしに首を傾げたベポは、「とても甘くていい匂いだよ!」と言ってガバリと腹筋で起き上がる。勢いでそのままベポのお腹を滑って正面で向かい合う。見上げると、じゃれる様にベポはわたしの首筋に鼻先をぐりぐり押しつけてくる。


「やっ!!やだ、ベポッくすぐった…ッ」
「いいにおいだよー!!お日様みたい!!」
「ベポの馬鹿ぁー!!くすぐったいって言ってんのに!!ってコラ、ちょっと舐めないで!」
「だって、ほっぺ傷出来てる。大丈夫、絶対キャプテンが治してくれるからね!」


わたしとベポは部屋の中で結構な騒ぎを起こしているのに気付かなかった。







一方、隣の部屋では。
手を出して治療したからには責任を持つのが流儀で、街を回っていたローとペンギン。


夕方になり帰った矢先の元気の良さ。ペンギンは苛立った男の背を見て吹き出しそうになった。しかもなんだか聴くに少し妖しさを伴って聞こえてしまった、自分の耳が変なのだろうか。ペンギンの耳に聞こえたなら当然この男にも聞こえているはずで。


「――…ペンギン、あの馬鹿どもに安静という言葉を教えて来い」
「嫌です。二人に言葉教えたの船長なんですから、船長が行ってください」


そんな話がされてるとは露知らず、穏やかに時間が過ぎたのであった。






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