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結局、その日の夕方にはローくんたちが合流した。
海賊で、だけれど治療してくれた一味の船長が現れ、村人は感謝を述べる者達ばかりだがローくんは気紛れだと言って受け流していた。
まぁ、感謝されるためにやっていた訳ではないのでそれでいいとも思うが、村人にとってはそうはいかないようだ。うん、ローくんはただ面倒臭いだけなのだけれど周りの人からは謙虚な人になっているぞ。在り得ない。

傍目から見て、感謝される海賊って不思議な気持ちである。
まぁ畏怖されて罵倒を浴びるよりはいいのかもしれない。ふふ、表情は変えないけれどローくんが辟易しているのが解る。
滅多にないんだから感謝されればいい。早々に助けるという事を放棄した美和はベポに抱きしめられたまま、首回りを撫でる。

「ベポ、疲れてない?凄い早く着いたけど…」
「このぐらい大丈夫―!」

おおおおおおお、凄い。
わたしとミネルバさんは虎さんに運んでもらったから楽チンだったけど、皆自分の足で来たのに速いし疲れてない様子に何時もながら吃驚だ。
しかし、わたし以上に驚愕しているひとが居た。

「おーい、パルフィンさん…?」
「この人だれー?」
「ああ、この人が巫女さんだよベポ。パルフィンさん、仲間のベポです」

白くまで二足歩行で、しかも喋っている姿を見て絶句しているパルフィンさん。目の前に手を翳してぶんぶん振ってみたけれど反応がない。うーん、こんなに可愛いベポだけれど初対面はやっぱり吃驚するものなのか。最初から知っているから美和は良く分からず首を捻る。ベポもごろごろとわたしにジャレついているので特に気にした様子がない。
しかし、パルフィンはわなわなと口元に手を当てて、言い放った。

「く、熊が喋って…!!!!!」
「……喋れてスミマセン…」



結局、例の如く説明から入った美和である。
喋れる熊さんのベポを紹介し、危険がないことを村人にも説明する。
一通り、黄金の事やフィンという神様を拾った経緯を話し、敵対する賞金稼ぎと戦うだろうウマを伝える。

「…ということです。神様のお届け料で“黄金”を貰う手筈になってるので」
「信じられない、…なんて言っても目の前でフィン様を持てるのが証拠ですわね」
「フィンちゃんを明日朝一で中央の神殿まで届けるよ。黄金は貰うけど、貴方たちの神様を傷付けるつもりもないから」

話の進行上、手元に抱えて話す。
フィンも頭の中で、そうよーと軽いながらも受け答えしている。ふふふ、久しぶりの故郷で嬉しいという気持ちがわたしにも流れ込んでくる。
しかし、目の前のパルフィンは顔を下げて、踵を返して駆けだしてしまった。森の奥へと駆けてしまう巫女さんに戸惑いながらも、後を追いかける。
ベポも付いてきそうなところを、寸前で留め、直ぐに戻るからと森の奥へと進む。

だって、パルフィンさん泣いていた。

ちょっとしかまだ一緒に居ないけれど、話している限り責任感の強い女性の様だった。村を守るため、敵陣に捕まっても気丈に振る舞い続けた女性が、泣いているのだ。
話していた相手は、わたし。
原因は、わたしにあると思う。いや、わたしたち、かな。
パルフィンさんは、巫女で、この村を守ろうとしていたのは一目瞭然で。たぶん、この村が大好きで、自分たちの守り“神”たちを大切にしてきたのに、賞金稼ぎに村を荒らされてしまった。人だけでも助けようとしても、女の手では助けられなかっただろう。
無力な思いを味わったのは、勿論美和だってある。強大な力の前に、立ち竦んだこともある。
けれども、そこに現れたわたしたち“ハートの海賊団”は簡単とは言わないが村人を助けたのだ。パルフィンさんに出来なかったことをしてしまったのだ。
たぶん、パルフィンさんはわたしたちに感謝の気持ちを持っているけれど遣る瀬無い気持ちもあるのも当然だと思う。それは、本当に当たり前だと思う。

ひとりではどうにもならないこともある。

わたしが行ったって、邪魔なだけかもしれないけれど、放って置くことも出来ない。
森を抜け、小さなセノーテに辿り着くと、石に座ったパルフィンさんを見付けた。
木々の擦れる音で、パルフィンさんはわたしの存在に気付いている。

「…ッ」

息を飲んだパルフィンさんは慌てて回れ右をして顔を隠してしまう。
お節介過ぎるかもしれないけれど、このまま放置することなど出来ない。一歩一歩近づいて、傍の地面に体育座りする。
別に、何も言うつもりはない。こういう時、ひとりでいると思考は暗くなるのだ。
ただ、ひとが傍に居るだけで闇に飲み込まれないこともある。美和は、小さい時に経験した。誰もがそうな訳でもないけど、パルフィンさんは文句を言わないしその場を立ち去ることも無かったので、そのまま黙って傍に居た。
腕にはフィンも居るけれど、珍しく静かで。

もう辺りは闇に包まれている。
暗いけれど潺の音や、風の音、虫の音、静かな空間に、時折鼻を啜る音が聴こえる。
天は満天の星。
(綺麗…)
辺りに灯りが無い分、星は沢山観える。
魅入っていると、ぽつりと声が聞こえた。

「…貴女、お節介なのね」
「…そうみたい、です」

ぐす、っと鼻を啜る音と共に聞こえた声音に苦笑する。そうだなぁ、お節介でけれども何かを言えるような器用さもないのだけれど。
わたしのあやふやな返答に、可笑しそうに吹き出した女性は泣き笑いだった。
けれども、何か吹っ切れたようにも感じる。つられて、一緒に笑ってしまった。

「…ありがとう、貴方達が来てくれて村の人達は助かったわ。わたしだけでは何も出来なかった…」
「…わたしたちは、何も。目的は“黄金”だし、ね」
「正直、悔しかったわ。外から何も知らない貴方達にこの土地を穢されているようで…けれど、何も出来ない自分に一番腹が立ったんですの」
「…パルフィンさん、」

嗚呼、ただの愚痴ですから聞き流してくださいね、とパルフィンは笑う。
ただ黙ってわたしもパルフィンさんの話を聞いていた。うん、遣る瀬無い気持ちになるよね。わたしも無力さを実感して、理不尽な思いに駆られた時もあった。
けれど、パルフィンさんは強い女性の様だ。
もう、たったちょっとの時間で前を向いている。


腕に抱えた、フィンはぽつりと言った。
『人間って、変な生き物ね』と。
けれども、どこか優しい響きだったので美和は微笑んだ。

しかし、陰でひっそりとこちらを窺う輩がいるのに気付けなかったのだ。







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あきゅろす。
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