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シャチくんと“巫女”さんは相性が悪いと言うか、火に油というか頗る会話が成り立たない。これでは説明は無理だっただろうが、それは兎に角だ。
シャチくんとペンギンくんは船長に報告をしに行き、ミネルバさんとわたしは“巫女”さんと村人たちと取り敢えず昼食をとることにした。
巫女さんは興奮していたが、村人の様子を見て少し落ち着いたようだ。そして、疑心の目を向けながらも食事の輪に加わってくれた。村人の説明が功を奏して、わたしやミネルバさんは怪しまれながらも食事を配る。ううん、まぁ海賊だしこの反応が普通なんだろうな。
落ち着いた頃、わたしたちが“髑髏”を拾って返しに来たという事と、黄金狙いだが神に許可を貰ったことも伝えてある。信じる信じないは個人の自由なので、兎に角、目的は黄金と神を返すことなので、ひとに危害を加える気がないことちゃんと伝えた。
村人は、危害を加えられていないし、美和の痣も知っているので全面的に肯定してくれていたのだ。
話は一旦終わりにして、食事をすることにする。巫女は平気そうにしているが、少しやつれていて栄養は不十分の様だと見て分かった。
「どうぞ」
「……」
野菜のスープに、胃に優しいリゾット、そしてサラダも盛ったトレイを差し出す。食器なんてないから、ヤシの実を半分に割った殻をお皿代わりに使っていた。
わたしを見、そしてトレイを見、おずおずと手が挙がって受け取ってくれた。小さくありがとう、と聞こえたので笑顔でどういたしまして、と返して隣に座る。
がやがやと周りは元気になったので、美味しそうにご飯を食べながら楽しそうに笑っている。それを遠目に見ながら、巫女は何とも言えない顔をしていた。
ゆっくりながら、野菜スープを口に運んだ巫女さんは、軽く目を開いて呟いた。

「美味しい…」

ご飯を口に運ぶ動作が早くなり、直ぐにごはんを平らげた巫女さん。
良かった、と美和はゆっくりとごはんを咀嚼する。そして、全部を平らげて巫女さんの顔を覗き込む。もう、少しの戸惑いはあったが疑心ではなかった。

「おかわりありますよ」

ニコッと笑って、巫女に聞くとおずおずとあと少し、と聞こえたので少なめによそってきてまた手元に運ぶ。一通りお腹が膨れて、巫女さんが初めて少し笑ってくれた。

「――わたし、美和っていうの」
「…わたくしはパルフィンです。無礼な態度をとって申し訳ありませんでした」

てっきり、あいつらの様に略奪目的かと、と続いた言葉に苦笑する。
そりゃそうだ。普通、海賊は略奪や殺人、宝を奪ったり町や村を破壊したりするやつが多い。それを目的としない海賊は他にもいるだろうけど、圧倒的に少ないのだ。無理もない。

「ううん、気にしていないよ。寧ろ、他の奴らに襲われた直後だったから余計警戒しても可笑しくないと思うから…」

そして残忍な奴らに村を占拠されていたのも事実。そして、巫女さんは最後まで牢屋に囚われていたのだから信じるのが難しかったに違いない。
そして、パルフィンと名乗った巫女さんと打ち解けた美和は経緯を話した。
流された“髑髏”の神様を拾ったこと。そして、神様と取引をしたこと。そして、神様を中央の神殿に還す代わりに黄金を貰う約束をしたこと。

「では、美和は神と契約を交わしたということね」
「…呪われたくないもので」

ちょっと、地獄の特訓やローくんとフィンに挟まれて肩身が狭かったことが蘇って知らず汗が流れる。思い出したくない。
いやいや、それと島付近で沈んだ一層の船でこの島に残忍な何かが居ることも情報を得ていたことを伝える。狙いは黄金で、邪魔をするものは倒すつもりだと伝えると巫女は少し吃驚していた。

「…無理ですわ」
「?」

ポツリ、と巫女は言葉を続けた。
村を占拠しているのは海賊ではなく賞金稼ぎの集団であった。そして賞金稼ぎであるのに自らの首に懸賞金が掛かっている奴が“頭”だと言う。

「賞金額は2千万ベリーの悪名高い、黄金狩りの集団ですわ。敵いっこありません。それに、見るからに貴方たちは凶悪そうには見えませんわ」

確かに。
基本、船長を除くクルーは比較的友好的だ。ガン垂れたり、最初から威圧したりするのは船長ぐらいだ。それにこの一味には癒しのベポが居るのだ。途中参加であるため船長にどのくらいの賞金が掛かっているか知らないが、凶悪犯には見えないだろう。まぁ、この村の人達はわたしたち4人しか知らないのだけれど。
2千万ベリーとは果たしてどれくらいの凶悪犯なのだろう。

「ふふ、ご忠告どうも。まぁ海賊の目の前に黄金があるのにスゴスゴ引き下がることは出来ないわね。相手が誰であろうと、問題はないわ」
「ミネルバさん」

笑いながらミネルバさんは答える。美和は見上げながら、この温厚そうな見た目とは打って変わって結構喧嘩大好きなんだよな、と思う。ミネルバさんは、ふふふと笑いながらわたしの隣に座る。

「その賞金首なら知ってるわ。確か、黄金を執拗に狙っている奴らだったわね」
「ミネルバさん、知ってるの?」
「ふふふ、勿論」

集団で賞金稼ぎをしていて、黄金を海賊相手から奪うある意味海賊と同じようなものだ。名称が違うだけでやっていることはほぼ海賊と変わらないという。
面倒臭いことはしたくない船長は、果たして賞金額は付いているのだろうか。そういえばそんな話題でなかったかたから気にしていなかったけれど、どうなのだろう。

「まぁ、なんか黄金に憑りつかれた集団ね。なんか悪魔の実の能力者のようだけど、興味ないから忘れちゃった」

あっけらかんとミネルバは笑う。
うん、別に名前とかも興味ないからいいんだけれどね。
巫女…パルフィンが言うには、黄金を狙いとするらしい。だから、この島は狙われたのだという。つまりは、クリスタルスカルを狙って黄金を狙おうと云うんだ。しかし財宝をある一定の位置から動かすとその人は呪われてしまうというのは伝説の様に伝わっており、村人の中には危険を犯す者はいなかったという。先祖代々守ってきた島だから壊したくない。それに敵と争うという事は、たくさんのひとが死んでしまうという事だ。
理不尽だ。
確かに海賊は“奪う”もの。
けれども力のない者や戦う気のない者を無理に手を出して犠牲を増やすのはどうなのだろうか。少なくともハートの海賊団は無抵抗の者に手を上げたりしない。
うん、なんか黄金を奴らの手に渡して堪るか。
海賊であるわたしたちも黄金を“奪う”目的だし、相手方もヤル気満々の様だし。


「サバイバル、だな!」
「!シャチくん、ペンギンくん」


会話を聞いていたのか、突如現れた二人組は不敵に笑っている。
そしてその手には小でんでん虫が在って。
ローくんに報告し終わったのだろうが、どうしてまだこのでんでん虫は不敵な顔しているんだろう。


『――海賊が宝を目の前に、引く訳ないだろう』


低い声が愉しそうに嗤う。
繋がっているんだ。ローくんの所に。


『おい、そこの女。おまえらは邪魔だから其処で大人しくしてることだな』
「!?ちょ、なんですの!?この失礼な男!!」
「…すみません。ってか、キャプテン動くってこと?」


ローくんの口調は相変わらずで、言われたパルフィンは眉を吊り上げて憤慨している。
そうだよね、失礼な物言いですみません。
取り敢えず疑問を投げかけると、パッとでんでん虫が笑顔になったと同時に明るい声がした。

『そうだよー!!美和、おれたちももうちょっとでそっち行くからね!』
「ベポ?――本当!?」
『おー美和、元気そうだな!今まで留守番組決定トーナメントしてたんだよ!』
「……とーなめんとって」

ベポに続いてクルーたちの声が続々聴こえるのだが、信じがたい内容を話し出した。
トーナメントって、一味内で戦って体力減らして何してたんだと呆れてしまう。タフなのは知っているけど、それにしたって留守番組になりたくなかった人たち一杯居すぎだろう。
意外に血の気が多い奴らである。
くすくす笑っていると、受話器というかでんでん虫のバックから打撃音が聞こえて静かになった。しばらくして、漸くローくんの声がする。


『――まぁ、そういうことだ』


ニッと嗤ったでんでん虫に可笑しくて笑ってしまったのは言うまでもない。
皆、大好き!



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