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「ありがとう、礼を言う」



一人の男が頭を下げた。それに吊られて、その他の手伝ってくれた面々がお礼を口にする。
わたしはちょっと吃驚して、その後笑ってしまった。



「ううん、貴方たちが手伝ってくれたからあの人たち落ち着いてきたんだよ。わたしの方こそお礼をいいたいの。独りじゃできなかったから、ありがとう」



わたしはぺこりと頭を下げた。みんな、強面の人達が多いけど、基本体育会系の集まりで、さばさばしていた。目元を綻ばして、一緒に手伝ってくれた面々と話をした。
最初にお礼を言ってくれた男の人は、ロイというらしい。どうやら20歳らしい。眼つきは鋭いし、髪はツンツンと立っている。ヤンキーみたい。



「わたし、美和っていうの。よろしくね!」



此処にいる計5人はどうやら新入りたちのようだ。ロイ、アル、フォー、ドド、そして気の弱そうな男はルルというらしい。山賊になった経緯はどうやら食うに困ったから山賊になったとのこと。
皆ここが地元だというのだ。みんなグランドライン育ちね。



「ふーん、そっか。わたしは北の海からきたの。ちょっと砂漠で迷子になっちゃってリリーに助けてもらったんだ。リリー心配してると思うからそろそろ一旦帰んなきゃ」



わたしは、んーと伸びをして、肩を回す。緊張で体が固まっている。



「美和、なんで俺達を責めないんだ?」



ロイはふと思ったのか聞いてきた。周りも、ちょっと罰が悪そうに、そっぽを向いている人もいる。そりゃそうだ。わたしとリリーは今現在囚われの身なのだから。
恨み言もあるだろう、と言に匂わせてロイはわたしをみる。



「別に恨んでない。だって貴方たちがわたしを捕えた訳でもないし。簡単に言えば、わたしは自分でついてきたんだし。危険も覚悟してたし。あ、けどリリーに何かしたら怒るからね!」



わたしは、すっぱり言い切った。
なんで下端の君たちを恨まなきゃならないのだ。
山賊に捕えられたのは事実だけれど、その裏には他の指図した奴もいるのだ。
お門違いだ。そして、態々トラブルの渦中に飛び込んだのは美和自身だ。



一日で何とかならなかったら、首が飛んでたのは、わたしなのだから。
感謝こそするけれど、恨んじゃいない。
別にわたしが善悪を鑑定しなきゃいけないわけじゃない。人それぞれの理由があるだろうし。



「それじゃ、また後でくるね。ルル君、ほら早く送って行って。わたしあの部屋の鍵ないんだから!」



わたしは、茫然としていたルルを引っ張ってその場を辞した。その場を同じく、ロイ達は数分動けなかった。



***



わたしは、内緒で食料を貰って、ルルに扉の鍵を開けてもらった。



「ただいまー!」



わたしが元気よく扉から部屋に入るとリリーは一瞬笑顔になって、瞬間修羅の如く怒っていた。わたしは怒られると思っていたから、ちゃんと正座して、お小言をきちんと聞いた。うん、ごめんね、心配かけて。



「この馬鹿!!心配したんだから!!」



最後に、リリーはわたしの無事を抱きしめて喜んでくれた。わたしはやっと、無事だったんだと実感した。力を抜いて、ずるずるしゃがみ込んでしまった。



「ちょ、大丈夫?」
「リリーの顔見たら、気が抜けた。うわー生きてたよわたし」



今更、手が震えてくる。泣き笑いするわたしをリリーは、軽く叩いて抱きしめてくれた。



「あのー、美和さん、」



リリーもわたしもルル君の存在を忘れていた。所在なさ気に、扉の傍に立っている。
申し訳ないことをした。わたしは、怪訝そうなリリー―に事のあらましを説明した。
話すと、更に怒られたのは言うまでもない。



「――で、その子がルルってわけ。アンタね、山賊のアジトなのよここは。くれぐれも軽はずみな行動はよして頂戴!」
「気を付けるけど…。えっと、ごめんね、今日結局何も出来なかったの。…ごめんなさい」



わたしは、リリーに心配かけた上に、結局逃げ道を探すことは出来なかった。
しょぼん、としているとデコピンされた。



「当たり前じゃない。そもそも、逃げ道探せたほうが驚きよ。いい?そんなことは後でいいから、死なないで頂戴!」



なんて潔いんだ。わたしは感動してリリーに飛びつく。



「大丈夫だよ、わたし死にたくないもん。ちゃんと考えてるよ。」



わたしはリリーにカラカラ笑ったら、殴られた。痛い。リリーの愛が痛い。
まぁ、わたしが逆の立場だったら、心配だもんな。



「ナイフで凄まれて、死にそうになっておいて何言ってんの!」



けれど、美和は遠くを思い馳せた。
10年程前、北の海での半年を。



「怖かったけど、もっと怖い事されたことあるからなぁ……。(ローくんにメスで凄まれたり、麻酔薬注射された後、勝手に全身麻酔掛けられたり…その方が怖かった)」



***



ごはんを食べてからわたしはルル君と一緒にまた階下に下がり、食あたりの人達を見に行った。ピークを越えて、水分も摂取出来ている様だし、お粥も食べられている様だ。



一番弱っていた女性は熱も下がってきていて、顔色も大分良さそうだ。熱をおでこで計って、うん、とわたしは彼女を安心させるように笑った。



「大丈夫だよ、熱も引いてきたし、症状も落ち着いてきたみたいだし。けど気を付けてね、今一番体が弱ってるから、ぶり返さないようにしっかり寝て、食べて体力回復しなきゃ!」
「…ありがとう」



水分を彼女に飲まして、だいぶ間隔の開いた症状にほっとした。
ちゃんと寝てね、と部屋を後にする。ぱたんと静かに扉を閉めて、そのまま座り込んだ。



わたしは医者じゃない。しかも、判断に至るまでの材料が足りない中で、誤診してしまっていたらこの部屋の人達は死んでいたかもしれない。良かった、少しでも役に立てて。
薬学は齧っているけど、治療となったら医師の正しい診断の元薬を配合するのだ。
分を過ぎてしまってもいけない。看護、という面でしかわたしは役立たない。
はぁー、とわたしは息を吐き出した。



「何やってんだ、こんなとこで」
「あ、ロイ君。こんばんはー」



呆れたような顔のロイに軽く挨拶する。余計、呆れたような顔をされた。失礼な。
それはそうとどうして此処に、と美和が尋ねると見張り、と返答があった。
ふむ、どうやらロイは見張りの様だ。わたしはロイ君にくっついてアジトを案内してもらう。



結構広い。一階はホールのような広い空間で、そこに多くの武器やら部品が格納されている。二階は食料庫、調理室、配管、主な山賊の下っ端が雑魚寝する部屋があった。三階は幹部と頭の部屋のようだ。で、最上階の部屋は一部屋しかなくて、わたしたちが閉じ込められていた場所だ。ふむ、大体配置は分かった。



「ねぇ、ロイ君、あの街に残った人たちとどうやって連絡取るの?」
「でんでんむしだな」
「ふーん…」



人の足で半日は掛かった。馬とかを飛ばせば、3時間ってあたりか。逆に、街に何か起きてもでんでんむしを通さなければ、そのくらい掛かるんだな。
わたしたちがここで何か起こしても、でんでんむしで街に連絡されたら帰る前に街が消えてしまうだろう。どうしたものか。しかもこの山賊以外にも、依頼主がいるのだ。



「おい、美和。お前口に出てんぞ」
「気にしないで。今どうやって逃げようか考えてるんだから」
「…俺に言ったらヤバいって思えよ。仮にも敵なのに」



調子狂う女、といいながらロイは特に気にしていない。たぶん、言わないだろう。わたしも別にチクられても、しょうがないと思ってる。どちらにしても、タイムリミットはあと1日になってしまった。今は、深夜だ。もう、2日目に突入している。病人を放っておけないし。今日は寝れないなぁ。



リリーの引き取り先が此処に到着してしまえば、意味がなくなってしまう。
たぶん、山賊は取引が終了したら、街を壊す気だ。わたしたちを牽制するにしても、街に山賊の仲間を残すのは大掛かりだ。たぶん、確実にあの頭ならやる。



結局、タイムリミットは無情に近づいてきた。
わたしはあの後、寝ずの看病をして病人の回復を見届けた。食あたり事件から、仲良くなったロイ君はよく一緒にいてアジトを案内してくれた。そして、完治した面々から、感謝されたのは言うまでもない。



片付けろ、といったお頭は綺麗になった部屋に、何も言わなかった。方法は何でもいいか、とわたしはちゃんと聞いた。特に、興味も無さそうにわたしは死を免れた。
免れたは良いけど、今度は逃げだせる方法を探したい。
わたしとリリーは特にただの女の子だ。隙と油断を突かなければ逃げ出したって、山賊を生業とする輩に敵いっこない。しかも此処は彼らに地の利がある。条件が悪い。



2日目の昼、解放されたわたしはふらふらする身体を叱咤してリリーの元に帰る。3時間ほど仮眠してもう一度アジトを散策する。



「どうしよう…」



時間がない。焦っても時は止まらない。出来るなら、引き取り先が何かのトラブルで来なければいいのに。たぶん、気が短そうな山賊の頭のことだから、人手を使ってその取引先を脅しそうだ。そうなれば、時間が出来る。そして一番いいのは、オアシスの街が解放されていると最高なんだけど。
そんな、都合のいいこと起きてくれないかな。



(そんなわけないか…)



結局、わたしは大した収穫もなく最終日を過ごしてしまった。寝る前に、リリーにごめんね、けど諦めないから、とふたりで一緒に眠った。



そして、何故か相手先がトラブルをおこしているというでんでんむしの報告がきたのだ。奇跡が現実になった事に、唖然としてしまった。



「まさか、本当に何か起きるなんて…!」



わたしは、神様にありがとうと何度もお礼を言った。
そのありがとうとお礼を言うべき相手が、ずっと会いたかった男の子だと知るまで、…あと少し。






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あきゅろす。
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