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stray boy


アシナガオニイサンの続き









「いただきます、ってば。」

「はい、どうぞ。」

てなわけで。ただいま見知らぬオニイサンと食事中。

いや、だって。オニイサンを引っ掻けるのには失敗したし、これからまた誰か別の人を探すのも面倒だし。これで今日は食いっぱぐれなくて済むわけで。寝床はまぁ、会員証証とかいらない年齢確認もおざなりな、いきつけのネットカフェにでも行って朝まで滞在すればいい。とにかくなんでかわからないがご馳走してくれると言うこの人に少しくらい甘えてもバチは当たらない、と思う。

「………。」

それにしても。若い女の子ならまだしも若くはあっても男≠フ自分を買わないか、と持ちかけられたってことはつまり、オニイサンはオレに男もいける≠ニ勘違いされたってわけで。それって絶対気分が良いわけないと思う。オレだったら殴ってるだろう、確実に。なのに何故この人はそんな自分にご飯をご馳走してくれたりするんだろう。さっきは説教なんかしない、って言ってたけどやっぱり実は説教する気なんだろうか?とも思ったがそんな様子は微塵もない。

目の前にいるオニイサンはオレが注文するとき同時に頼んだコーヒーを窓の外をぼーっと眺めながら啜っている。その表情は何考えてるのか全然読めない。いっそ何も考えていないと言った方が良いくらいに無表情だ。

自分はこのオニイサンが来る前から此処に居て。今のこの人のように窓の外をぼーっと眺めながら人間観察と言う名の品定めをしていたのだけれど、そこへオレのすぐ後ろのボックス席に向かってオニイサンは歩いてきた。実を言えばその時だけだった。この人の顔をみたのは。それも一瞬。

染み付いた癖というかなんというか。よく言うだろ?職業柄〜≠チて。そんなのと同じように、オレは顔なんかよりも身に付けてるものに目がいってしまう。だから顔なんてオマケみたいな感覚で。良ければラッキー!その程度だ。

オニイサンはそう高くないスーツを着ているのにネクタイや腕時計は高価なものをつけていた。全身ブランドで身を包んだいかにも金持ってます!みたいな奴よりこういう人の方が案外持ってるもので。あと、人格的にそっちの方が好みってのもある。

そういうわけでオレ的に好みだったし、背後ではあるけどチラチラと窓越しに様子を伺ってたんだけど。まぁ、なんていうか、雰囲気ってか勘だけど男もイケそう、っていうか。隣のボックス席に偶然居たナイスバディな露出度の高い姉ちゃんたちにも目もくれないし。だから声をかけてみたわけだけどあえなく撃沈。

(…ってわけでもねぇか、)

だって1食分は浮いたわけだし。

そんなことを考えながらチラチラとオニイサンの様子を伺っていると目があった。

「………。」

「………。」

気まずい。何か喋った方が良いか?なんて話題を考えているとオニイサンが口を開いた。

「…ねぇ。何でこんなことしてるの?あぁ、さっきも言ったけど説教なんてするつもりはないし気にさわったらごめんね。」

答えたくなかったら答えなくて良いよ、そう言ってまた窓の外へと視線を戻した。

いつもなら絶対答えない。だって言ったところで何になる?うん、何にもならない。こういうことを聞いてくる奴は大抵同情したいだけなのだ。かわいそうに、そう言いたいだけ。助けてくれるわけでもない。いや、多少生きていくための援助はしてくれるんだけど、それはオレの働きによって貰ってるものだし。それにオレ自身、自分の境遇を不幸だなんて思ったことはない。だってこうやって生きていけてるんだから。やってることは人様に堂々と言えるようなものではないけどそれでもちゃんと、生きてる。同情なんてされたくない。だからいつもなら絶対話さない。なのに、何故かオレはオニイサンになら話していいかも、なんて思った。

「オレ、親居ねぇの。小さい時に事故で死んだらしい。んで、遠縁?のじいちゃんに面倒みてもらってたんだけど一年前に死んじゃって。そんで次は施設に入れられたんだけどそこが最悪でさ。なにかにつけて殴られるし。ご飯もロクに食わしてくんねぇの。だから中学卒業してそこ出てきたんだってば。だけどこんな歳でしかも住むところもないってなるとどこも雇ってくれねぇし、夜の世界ってのにも行ってみたんだけどオレ童顔じゃん?だから歳ごまかせなくてさ。で、まぁ。こういうことでもしなきゃ生きてけねぇってわけ。」

興味があった。この不思議なオニイサンがどういう反応するのか。たいへんだったな、可哀想に。って同情する?それとも理由はどうアレこういうことをしてるオレを軽蔑する?

「ふーん、そっか。」

「…それだけ?」

正直、拍子抜けした。話してるときも顔色ひとつ変えなかったけど。やっぱり変なオニイサン。

「なに?同情でもしてほしかった?」

「いや、そうじゃなくて。」

「やってることは決して良いことじゃないけどそうしないと生きていけないんでしょ?君がただの小遣い稼ぎなんて軽い気持ちでやってるんならどうかと思うけど。ソレに同情なんかしたところでなんになるの?どうにかしてあげられるわけでもないし、必死に生きてる君に失礼じゃない。まぁ、誉められることではないけどね。やっぱり。」

…こんな人もいるんだ。今まで出会った奴らは自分のことを棚にあげてオレのことを見下してる奴らばっかだったのに。オマエたちがバカにしているオレを買ってるのは誰だ?何度そう思ったことか。でもこの人は違う。別に、死にたいとか思ったことはないけど。やっぱりしてることは最低なことだって自覚してるから。こんなオレでも生きてていいんだ、ってそう思えた。コレを食べたらもうお別れだけど、この人に会えてよかった。

「ね、ちょっと電話してきてもいいかな?」

「?いいってばよ?」

何か思いついた様にそう告げて、店内が騒がしいからか常識人だからなのかはわからないがオニイサンは携帯片手に店の外へと出ていった。窓越しに見える位置で誰かと話してるオニイサンをぼーっと眺めながら頼んだパスタを口に運ぶ。また会えるといいな、なんて考えながら。しばらくして。電話を終えたらしいオニイサンは戻ってくるなり何かたくらんでるようなそんな笑みを浮かべ、言った。

「君さ、オレのところにおいでよ。」






stray boy
(そうしてオレは、拾われた)






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