甘くも悲しいストーリーN
「ナルト、」
たとえば。
その、少し低めの声だとか
その、優しく細められた右目だとか
その、大きくて暖かい手のひらだとか
その、綺麗に輝く銀色だとか
あれも、これも、それも、ぜんぶ、ぜんぶ。
(オレノモノニナレバイイ)
「先生、オトコとシたことある?」
任務を共にすることも少なくなっていき、たまに顔を合わす程度になった上司に、言った。
「…は?」
返された言葉は間抜けなものだが、表情はいつもと同じ、飄々としていて、ちっとも動揺していないことがわかる。
「いや、だから。先生は昔からモテてたろ?オンナに困ったことはねぇだろーけどさ、1回くらいオトコとしたことあんのかな、って。忍の世界じゃ少なくないみてぇだし。」
久しぶりに顔を合わせ、数年前には無縁だった居酒屋で酒を交わしたあと、お互い明日も休みだし飲み明かそう、と、半ば強引に自宅へ招いた。
「…ないねぇ。オンナで事足りてるもんで。」
もちろん、招いた本人である青年は、飲み明かす気なんて更々なく。
「だよな。でもさ、少しくらい興味ねぇ?1回くらい、オトコとしてみたくねぇってば?」
人によっちゃあ、ハマるらしいし。と付け足せば、ぴくり、と、僅かに眉が上がった気がした。
「興味もったところで誰が相手してくれるってゆうの。っていうか、オマエさっきからなんかおかしいよ。もう呑むの止めたら?」
おかしくなんかない、正常だ。
…いや、でも。
あながち間違ってないかもしれない、な。
こんな、邪な気持ちを抱いた時点で。
普通、ではなくなったのは、確か。
「相手ならオレがしてあげる。ねぇ、1回くらい試してみれば。」
これじゃあ、そこらの娼婦と変わらない。だけど、これしか思いつかない、バカな思考回路。
「なに言って、…ッ」
経験なんてないくせに、書物で植え付けた知識をフル活用。
上目遣いで媚び売って、厭らしい手つきで身体に触れれば、僅かに揺れる欲を含んだ瞳。
「気持ちよくなろうってば、ね、せんせー?」
そして堕ちればいい、溺れればいい。
オレという名の、快楽に。
「……ナル、やめッ、」
そしたら、抜け出せなくしてあげるから。
「オレじゃあ、起たない? まぁ、そりゃそうか。うん、でも、大丈夫だってば。先生はジッとしててくれればいいから、だから、ちょーだい?」
あれも、これも、それも、ぜんぶ、ぜんぶ。
「まさか、オマエにこんな特技、があったとはね。相性がいいのかな?先生、ハマっちゃった。オンナは何かと面倒だし……また、宜しく、ね。」
好きだった、
ただそれだけ、だった、のに。
(ドコデマチガッタ、?)
これじゃあただの、性欲処理機。
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