初恋アイロニー
任務帰り、当然のごとくラーメンを奢らされ、たわいもない話をしながら帰路についていると突然。
「先生はさ、初体験っての、いつだってば?」
なんて、さっきまでの会話と何の脈絡もない言葉を投げかけられて。
その内容に思わず噴き出しそうになったのは、まぁ、無理もないと思う。
この子達を受け持つようになってからもう四年程経ったがまさか、こんな事を聞かれるなんて思ってもみなかった。
「さぁ…、いつだったかな、?」
そう応えたオレを、碧の瞳が恨めしそうに訴える。
はぐらかしてんじゃねぇ、と。
だけどもそれは勘違いというもので、本当に覚えていないのだ。
いつだったか、とか、その子の顔だとか、名前だとか、何もかも。
オレにとってその程度のことだったのだ、その行為は。
「……先生はモテるもんな、そんなの、いちいち覚えてねーか。」
皮肉を込めたソレに、弁解の余地がないオレは、困ったな、なんて頬を掻きながら、目の前のその子から、明後日の方向へと視線を逸らした。
なんで、この子はこんな事を聞くのだろう。
そう思い、ふと、浮かんだ答え。
この子ももう十六で、そういう行為に興味をもつ年頃だということ、か。
大方、そういう事に関する知識なんかを伺いたいのだろう。
「じゃあさ、初恋は、いつ?」
…逆じゃない?
普通はそっちから聞くもんでしょうよ、
なんて少し間をあけてしまったために、ナルトは自己完結してしまったようで。
「…それも忘れた? どうしようもないってばね、先生は。」
なんて呆れ顔を浮かべ、さっきまで合わせていた歩幅を幾分早くし、オレの斜め前に出た。
……違う。
ねぇ、ちゃんと覚えてるよ、初恋。
両手を首の後ろで組み、前を行く背中に問いかける。
いや、覚えてる、というのは語弊か、
オレの初恋は恥ずかしいことに、
今現在、進行形、なんだよ、
「あーあ、もっと早く産まれたかった。例えば、今より十四年早く、とか。」
「…え、?」
ソレ、どういう意味?と、問うよりも早く、
「だってそしたら、先生が、そんなの、しでかす魔も与えないくらいに、全力で愛したのに。」
「…、ナル、」
「オレの初恋が先生であるように、先生の初恋もオレだったらいいのに、とか、オレの初めて、全部あげるから、先生の初めても全部、オレに頂戴、だとか、そんなこと考えてたらさ………憎い、」
オレの知らない十四年が、と、
オマエの初恋ってサクラじゃないの、とか、オマエがオレと同い年だったらきっと仲悪いよ、とか、先生の初恋は現在進行形でオマエなんだよ、とか言いたいことは山ほどあるけど、とりあえず。
「オレの"そういう"はじめては、もうなくなっちゃったから、あげられないけど、オマエのはじめては、欲しい、なんて、ダメかな?」
はじめて芽生えたこの気持ちと、これから、は全部オマエにあげるから。
初恋アイロニー
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