偽り
17
「ふーん、ほんとにわかんないんだ、じゃぁ、目を開けて確かめてみたら?」
「いえ、…遠慮しときます」
「そ、残念」
そう言ったこの人の声がどこか楽しそうで俺の頭に1人の名前が浮かび上がった。俺、…なんとなくわかったかもしれない。この毒舌ぶりはたぶんあいつだ。俺、やっちゃったのかな。
はははと渇いた笑い声が出た俺に、何、気持ち悪いと一言。あー、俺、わかった。こいつは…相良千里だ。間違いない。
「ねぇ、あんた大丈夫?頭おかしくなったの?」
「いえ、大丈夫です、なので俺帰ります」
そう言って目を開け、相良がいない方を向いて立ち上がった。すんなりと立てたことに自分はやればできるんだと自分を褒めていた。
「なんだ、ちゃんと立てるじゃん、ってなんで後ろ向いてんの?」
「いえ、気にしないでください」
じゃぁ、俺はこれで、と顔をなるべく見せないように相良の横を通ってドアに向かった。よし、これで逃げられると安心してドアに手をかけたとき相良に呼び止められた。俺はその場に立ち止まった。何止まってんだ俺…。
「もしかして、俺から逃げてる?」
「いや、逃げてないです」「逃げてるじゃん」
「逃げてないです」
「……なんか君、勘違いしてない?」
「え?」
俺、一般生徒だから、とぽつりと呟いた相良の方に一瞬振り向こうとしてしまった。
「……え、相良、千里、じゃないんですか?」
違うよ、相良千里って生徒会の人だよねと自分じゃないように言った後ろの人がほんとに相良千里じゃないのかもと自分の中に疑問が出てきた。てか、この展開ってもしかして、2人目の友達ができるチャンスかもしれない。そうだ、この半年間ヒロ以外1人も友達が出来なかった俺に転機が訪れたんだ。なら、もう1人くらい友達作ってもいいよな?そう自己解決し俺は思いっきり後ろを振り返った。
「お、………」
俺と友達になってくださいとベタな台詞を言おうと口をあけた俺は最初の一文字しか言えなかった。
目の前には不適に笑う相良千里がいた。俺はまんまと目の前にいる男に騙されたのだ…。
「……俺としたことが、うぅ…」
その場に俺はしゃがみこみ自分の腑甲斐なさに泣いた。俺はばかだ。
「そんなに落ち込むこと?まぁ、面白いの見れたけど」
「俺はおもしろくない…」
君が面白くないのは知らないよ、となんの悪びれもなく言った相良に言い返そうと顔を上げた時、後ろのドアが開き俺の頭にゴンッと言う大きな音と激しい痛みが俺を襲った。そのまま俺は前に倒れて意識を失った。意識が遠退くなか、あ、わりぃと言う声が聞こえた気がした。
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