偽り 5 「ヒロー、俺、もう応援したくなーい」 歓声にまぎれてそんなことを言うとヒロは俺に笑いながら俺もーと言ってきた。 だけど、ヒロはヒロでなんだか楽しそうだ。 そんなことを思いながらふと、コートを見ると相良千里と目が合った、ような気がした。俺はとっさに満面の笑みで対応した。すると、相良の眉間に皺がよるのがわかった。 なんだ、あの反応。 俺の顔そんなに変だったか?いや、俺の演技は完璧なはずだ。じゃぁ、なんで不機嫌になるんだ? んー、わからん。 「ゆずる!!危な」 「…っ!!」 ヒロの焦った声が聞こえたかと思ったら、顔に激痛がはしった。俺はそのあまりの痛さに顔を手で覆いしゃがみこんだ。 イッタァー!! と心の中で叫ぶ。 近くではバスケットボールが転がっていた。 「おぃ、ゆずる、…大丈夫か?」 ヒロが俺の顔を覗き込みながら心配そうに言ってきた。俺は俺で痛さのせいでしゃべれないでいた。 ほんと痛い…。 「うわ、悪い!そこの子大丈夫か?」 前方から聞こえてきた声に周りが即反応する。 小此木だ…。 「なぁ、君、ほんとに大丈夫か?」 俺のとこまできた小此木はしゃがみこんで俺にそう聞いてきた。 だ、大丈夫じゃない。 し、視線が痛い。 顔の痛さより周りの奴らの視線に耐えきれない…。 「あ、小此木様、こ、こいつなら全然大丈夫なんで、試合に戻って大丈夫ですよ」 俺の危機的状況を察知してくれたのか、ヒロが小此木にそう言ってくれた。 ヒロ、ナイス! 「え、そう?まぁ、大丈夫ならいいんだけどさ。君、後でちゃんと保健室に行くんだよ。」 爽やかスマイルでそう言った小此木はコートに戻どろうと体を反転させた。 すると思い出したかのように顔だけこっちに向けて、こう言ってきた。 「あ、言っておくけど、ボール投げたの俺じゃないから。」 ちょっと意地悪っぽい笑みを浮かべさせながらコートに戻っていった。 俺は頭にハテナを浮かべ、顔を覆った手の隙間から目線をそらした。 手の隙間から見えたのは不敵に笑う相良だった。 犯人は、お ま え か。 [*前へ][次へ#] [戻る] |