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偽り
29


「なんでそんなとこに突っ立ってんの」
「いえ、お気になさらずに」
「そんなこと言っても俺は気になるんだよね」

じっと見られて居たたまれなくなった俺は相良から一番離れている椅子に座った。目線は合わせない。

「なんでそこなわけ?」
「…いえ、なんとなくです」
「ふーん、まぁ、いいや」
「あ、あの、」
「何?」
「……あ、あの時はありがとうございました」

下を向いたまま言った俺に何それ、と意味がわからないといったオーラを出された。

「会長の…件で、…」
「……あー、あの時のね」
俺の言葉で言いたいことがわかったのか、相良は納得していた。

「今更だね」
「…う、ごめんなさい」
「まぁ、いいけど、お礼言われるほどのことじゃないし」
「はぁ…」

もしかして、それ言うためにここに来た?と驚いたように言われ、そうですけどと遠慮がちに言った。

「君、ばかだね」
「わかってます」

そう言ってチラッと相良を見たら俺を見て笑っていた。

「何か面白いですか?」

自然と相良に話してた俺は自分自身びっくりしていた。相良も相良で何かびっくりしていた。
暫しの沈黙の後、相良が口を開いた。

「名前は?」
「え?」
「だから、名前」
「…お、僕、のですか?」
「他に誰が居んの」
「ですよね…」

まさか名前を聞いてくるとは思わなかった俺は一瞬焦った。
…教えてもいいのかといろいろと悩んだけど、相良は大丈夫だろうとなぜか思い、教えることにした。

「…佐藤、ゆずる、です」
「ふーん、なんか普通でつまんない」
「悪いですか」

つい普通と言われそんな言葉を返していた。なんでか相良に対して素に戻ってしまう。…なんでだ。

「…無理して喋んなくていいよ」
「え?」

相良から思いもよらない返事が返ってきたからおもいっきし驚いてしまった。だけど、その後の、見ててなんかムカつくんだよねと言う言葉であぁ、相良はこう言うやつだったと呆れていた。

「あー、もうやめた」

何か吹っ切れた俺は相良が居るにも関わらず、そう言って立ち上がり、相良の近くの椅子に座った。

「行動の意味がわかんないんだけど」
「…俺もわかんない」
「何それ」

ばかじゃないと言われ、俺と相良はなぜか笑っていた。2人の中で何かが変わった気がした。それは2人ともわかんないけど、俺はとても心地よい感じがして、ヒロと出会ったときの気持ちに似ていると心のどこかで感じていた。その後で相良が先輩だと言うことを思い出したのだけど、本人自身気にしてない様子だったから俺も気にしないことにした。




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あきゅろす。
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