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偽り
23


「…暴れんじゃねぇ」
「……くっ」

後ろからどすの効いた声で言われもっと首が締まった。俺の体力もなくなってきて、というか何より苦しくて体がだらぁんとなっていた。それを見たヒロがゆずるーと叫んでいた。どこかのテレビドラマのワンシーンの用に。ヒロ…今の俺に笑いをとる力は残っていないよ、と声には出なかったけど、そんなことを思いながら俺は意識を手放しそうになった。

「仁神、そいつさっきのやつと違うよ」

離したら?とどこか聞き覚えのある声がした。それと同時に俺はその場に投げられた。なんとも言えない音と一緒に俺の体は床に叩きつけられた。ぐぇっと鳴いた俺は必死に息を吸ってなんとか意識を取り戻した。むせてほんとに苦しかった。

「違うだと?」
「さっきのやつは逃げてったよ」
「……」

会長に投げられた俺は床に寝たままこの場をやり過ごそうと考えた。ほんとは怒鳴ってやりたかったけど、そこまで馬鹿じゃない俺は無理に怒りを押し殺して、頑張った。
周りも静まりかえっていたのがだんだん騒ぎ出してきていろんな声が聞こえてきた。どれも俺に対する悪口で俺は泣きたくなった。
そんな騒ぎの中、会長と相良の会話が聞こえてきて、会長が間違っていたことに納得したのか、この場から出ていくのがわかった。それに便乗するかのように周りの奴らもいなくなって、しばらくすると食堂には俺とヒロだけになっていた。

「……ヒロ、もういいかな」
「おぉ、もう起きていいぞ」


いててと起き上がる俺に大丈夫かと声をかけてくれたヒロに抱きついた。

「なんで抱きつくねん」

そう笑って言ってくるヒロになんとなくと言って笑って誤魔化した。そんな俺を引き剥がすこともしないでずっと側にいてくれたヒロが俺は大好きだ。


「にしても腹立つ」
「ごもっとも」

俺の言いたいことがわかったのかヒロの顔が少し変わった。ヒロが怒っているのにびっくりしたけど、すぐ元の顔に戻っていた。
俺も俺で会長には怒りしか出てこない。間違いといて、謝りもしない上に、投げ捨てるとか何様なんだよ。

「あー!思い出すだけで腹が立つぅぅ」
「ゆずる、声押さえて」

笑いながらヒロに言われたけど俺の怒りは収まりそうにない。あの会長ありえないだろ。このイライラをどうしてくれる。あー、叫びたい。

「ねー、会長のばか野郎と叫んでいかな…」
「今は止めといたほうがいいと思うよ」
「…そうだね」

まぁ、これから大変だと思うけど、2人で頑張って行きますかと頭をぽんぽんと叩かれた。小さい声でおぅとだけ言った。ありがとう、ヒロ。


「あ、でもゆずる、相良千里に仮ができちゃったな」
「……う」

ヒロから離れて体育座りをした俺にそんな気にするなと言われたがこればっかりは気にしないわけがない。なんにせよ、助かったのは相良千里のおかげなのは確かなわけで、俺のなかでどうしたらいいのかわからなくなっていた。


「じゃぁさ、今度相良千里に会ったらお礼言うってのは」
「お礼?」

ヒロに言われてやっぱそれが一番だよなと思った俺はまたいつかあの図書室に言ってみようと考えていた。会いたくはないけど、会うしかないよな…。
俺たちはそれから俺が動けるようになるまでその場で雑談していた。その間に会長への怒りが爆発しそうになったのは言うまでもない。




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