最後に勝つのは、 笑ってないで触れてみて。 初恋みたいな甘いキスを頂戴よ。 また私に愛してると言って。 抱き締めて離さないって言ってみて。 真剣なかおで行くなって言って欲しいの。 またあなたは 最後まで意地悪なのね。 (そんなドラマのワンシーンを密かに期待していた私は愚かな女) 最後に勝つのは、 その私の最後となるだろう1日を彼は何食わぬ顔で過ごしていた。自分自身も最後だという事は知らずにいたの。彼のいつもの嘘っぱちな笑顔に騙されていたのね。だって普通の人間は、彼女が死ぬと聞いたら驚かない?あら、驚かないのかしら。私は何度考えてもやはり愚かだわ。いつかこういう日が来ることは知っていた筈なのに。彼に期待していた。彼が私を少しでも気にかけてくれているとね。 (ああそんな甘い話) 『あるわけがない』 「…なにがないの?」 彼は私の一言に書類に目を通していたその長い睫毛を揺らして、私を見据えた。 『なんでもない』 「ふーん」 また視線は紙っぺらへと。あんなのきっとレオに見てると思わせて寝てるんだわ。きっとそう。彼はそういうの、上手い。 私なんかに興味はないみたい。彼は書類で顔を隠して(きっと寝ている)沈黙のおめるた、かしら?私を見ようともしないで、いつもの熟睡っぷりを披露する。 これが私の最後の日。 [次へ] |