篠田学園-1部-
2
暫く話しをして、有紫は不意に立ち上がった。
「じゃあもう行くね」
「おぅ、なんかさんきゅ」
「いいえ」
ニコリと笑う有紫は先程とは違い、王子そのもので。
疑って悪かったかな…
そう思う程に不自然さが全くなかった。
「馨夜、血…」
突然手首を捕まれ、観察される。
有紫の視線を辿って手を見ると、確かに何かで切ったような傷とそこに付着した血があった。
「紙かなんかで切ったんかな」
「はい」
すっと差し出されたハンカチに、思わず目を見開いた。
「それ、有紫の……?」
「…敦がくれたんだ。趣味悪いけど一応使ってないとうるさいし…」
ばつが悪そうに言う有紫に、俺は笑みを零した。
なんだかんだ言って(腹黒いけど)兄弟でも、ちゃんと気を使ってるんだ。
「…なんか、ずりぃ」
「何が?」
「あ…否、なんでもねぇ」
無意識に呟いていた言葉に、俺は内心焦っていた。
俺、薫と仲良くしたいのか?
勿論そんなこと考えた事すらないが、本当はどうなんだ?
本能では仲良くしたいのだろうか。
「分かんねぇ…」
「?」
隣で怪しい目を向けてくる有紫に気付いて、俺は思考をそこでストップさせた。
考えても答なんて出ないし。
「じゃ、俺はここで。傷きちんと手当しないと細菌が入るからね」
「ちょ、有紫……」
ニコリと笑みを浮かべ、有紫は爽やかに差っていった。
俺の手に、あの悪趣味なハンカチを残して。
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