篠田学園-1部-
お宅訪問
「…すごかったな」
帰りのバスの隣に座る慶輔が言いづらそうに呟くのを聞いて、俺は溜め息混じりに苦笑した。
俺がバスに乗り込む直前までしつこく“直ぐに、だぞ”と言い続けた蓮の所為でくたくただ。
「悪ィ、後で電話する」
「あ、あぁ…」
旅行中に慶輔が俺に気づき、取り付けた約束は確か“帰ったら部屋に行く”だった。
今回の件で不可能になってしまったそれに、俺は仕方なしに電話を使うことにしたのだ。
「電話くれたら、きょ…お前の部屋に行く」
若干不機嫌そうに聞こえる程ぶっきらぼうな声音は、慶輔が少なからずショックを受けていた証。
慶輔は本当に不機嫌な時は素直に言う。
少なくとも俺には。
変な話しだが本当にそうなんだ。
まぁ、その話しは置いといて。
「じゃあ、紅茶入れてやるよ」
ニヤリと笑んでやると複雑そうに表情を歪める慶輔。
口を開いては閉じてを繰り返し、結局は先程の俺の言葉に同意するに留まった。
「この旅行中に何があったの?
なんか櫻木が恋する乙女みたいなんだけど…」
不意に頭上から聞き覚えのある声が降ってきて、俺は顔を上げた。
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