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∬短編∬
薄荷キャンディ(PJ)
いつもの様に煩わしい雪が降る午後。ふぅ、はぁ、二つの白い息が空に溶けていった。
「あーあ……ますます降ってきやがったなぁ…」
ピオニーが少し苛ついたような声をあげて、橇を担ぎ直す。
「だから言ったろ」踏みしめる度に小気味良い音をあげる雪に足をとられる事なくさっさと先へ進んで行くジェイドは「今日は大雪になるって」ハニーブラウンの髪に積っていく雪を少し払いながら溜息まじりに言う。「僕は確かにお前に忠告した筈だけれど?」
「そりゃ悪かったよ。でもな、今日はあんまし降りそうになかったから…」
ぶつぶつと呟いているその声を聞きながらも先頭の少年は振り返らずに前へ前へと進んで行く。ピオニーは少し駆け足でその後を追っていくが橇が重く、またズボズボと足が雪に埋まっていくため距離がどんどん開いていくのだ。
「おい、ちょっと待てよ!」
「厭だ」
短く言い放ち、ますます速度をあげていくジェイド。
「そもそも、今日は珍しくサフィールが風邪をひいたから久しぶりに家でゆっくりと研究でもしようと思っていたんだ。」
「悪かったってば!」
愚痴を続けようと口を開こうとしたが、ある物に気付きぴたりと急に立ち止まった。ピオニーは訝しげに首を傾げたが、この隙にと覚束ない足取りで間を詰めてゆく。
「伏せろピオニー!」
「へっ!?」
いきなり言い放たれ、素っ頓狂な声をあげて立ち止まる。
ガアア!白い毛におおわれた巨人が樹氷の影から飛び出してきてピオニーに襲いかかった。
「うわあああ!!」
反射的に持っていた橇で殴る。が、バリバリ、と硬い木でできている筈の橇は簡単に叩き割られてしまった。
「炸裂する力よ、エナジーブラスト!」
魔物は一瞬怯み、ピオニーからジェイドへと標的を変える。
「ジェイド!」
叩き折られた橇のとがっている部分で魔物の背中を一突きする。魔物は大きく仰け反り再びピオニーの方を睨んで牙をむき出した。
その僅かな隙にジェイドは自身の音素を高め、詠唱を始める。
「業火よ、焔の檻にて焼き尽くせ!イグニートプリズン!」
「ちょっ…ジェイド!」
巨大な譜陣が現れ、ピオニーもろとも魔物をその業火で包み込む。魔物は断末魔をあげて鮮やかな朱の中へ解けるように音素へ戻っていった。けれどピオニーは火傷一つしていない。周りの雪が溶けてしまっているのに、だ。
「味方識別(マーキング)かよ…死んだかと思った、俺…」
へなへなと力が抜けて座り込んでしまった。そして大きく息を吐く。
「イエティだ。」そんなピオニーとは裏腹に冷静なジェイド。「きっとお前が旨そうに見えたんだろうな」
「おいおい……」
すっかり無残な姿になってしまった橇を雪の少ない地面の上に置く。もう、持って帰っても仕方がないだろう。すでにこの大雪で白く彩られ始めている。
立ち上がろうとしたが、やはり力が入らない。仕方がなさそうにジェイドが手を差し出す。
「よっと…」
と、ピオニーの腹がぐぅとなった。
「へへ…おいジェイド、なんか持ってないか?」
「あ?」
思わず不機嫌な声が漏れてしまったが、とりあえずポケットの中をまさぐるといくつかの粒。
「飴ならあるよ」
差し出したのは白い飴。
「何味だ?」
「…薄荷」
「渋ッ!」
「仕方ないだろ。ネフリーが食べていた物の残りを持ってきたんだ。それに僕は好きだけど?」
ポン、と渡してやる。
「微妙だなぁ…まぁ、これで我慢するか…」
口に放り込むと、爽やかな、妙な甘味。
「さあ、もしかしたら吹雪になるかも知れないぞ。早く来いよ」
「わかってらー」
口の中でその妙な甘味を転がしながらまた先に行こうとする彼を追いかけた。


旅の合間に訪れたグランコクマ。ジェイドはこの僅かな間だけでも自分の仕事を少しでも減らそうと取りかかっていた。
すると、いつものように彼がやってくるのだ。
「お、頑張ってるなー感心感心」
「今は陛下のお相手をしている暇はありませんよ?」
そっけなく言い放ち、書類にペンを走らせる彼から香る爽やかな香り。
「ん?お前何食ってんだ?」
「薄荷飴です。疲れた時は甘い物が欲しいので」
「渋ッ」
あの時と全く同じ反応をした幼馴染。
「食べますか?」
「ああ」
ジェイドが袋から取り出そうとした瞬間、彼の顎に指を添えて。
「やっぱ、微妙だな。ハッカ」
白い歯を見せて、そう笑った。
薄荷の匂いの運命の人。


――――――――
あとがき

タイトルで分かるように、近畿です。
あの歌私には低すぎて歌えない;

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あきゅろす。
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