SS 世界で一番嫌いな匂い 「もう帰っちゃう………よなぁ…」 「ああ、悪いな。仕事だから」 嘘だ。悪いなんてちっとも思ってないくせに。 あんだけやっといて終わったらそそくさとシャワー。元気すぎだろ。まったく。 だだっ広いキングサイズのベッドで動けずにぐったりしている俺。 素肌に申し訳程度に掛かっているタオルケット。 起き上がるのもダルい。 寝転がったまま奴の支度を見つめる。 「そんな目ぇすんなって。今日はすぐ戻るから。お前はそれまでゆっくりしてろ。また起き上がれなくなるくらい腰砕けにしてやるから」 どんな目だよ。それに、またヤんのかよ。 ……って言ってやりたい。 「早く……早く戻ってこいよなっ」 やるせなくて、バフッと枕に顔を埋めた。 フワフワのクッション。 この大きなベッドはこいつが買わせたんだ。二人でいるとあんなに居心地がいい場所だけど、一人だと寂しさしかない。 あいつがタオルケットを俺にきれいにかけ直す。 フワッと香るタバコの匂い。 「いってくる」 最後にポンポンと頭を撫でられた。 世界で一番嫌いな匂い。 それは、君が残す残り香。 寂しくってどうしようもなくなるから。 [*前へ][次へ#] [戻る] |