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●§侵略基地§●
追憶の曹長4
強化硝子鉄の床で冷えた体が

スポットをあてられて少し温度を上げたように感じる。


スピーカー越しに提督の声が重く響いた。

「クルル少佐。

通常ならば君の行為は重大な反逆行為だ。
極刑にも値する。」


解っている事を反復される程
ウザッたいものはない。

俺はアクビを溢しそうになって
強く口を結んだ。
それは反感の表れにも見えたかもしれない。

厳格な法廷での尋問。
冷たい床は俺を更に惨めにさせてくれる。

ボンヤリと降ってくる言葉を聞き流す俺に
提督は寝言を続けた。

「しかし君のその類稀な才能を失う事は
我が軍にとっても大きな損害なのだよ。」


―――そりゃそうだろうな。

闇に沈むスポットの外側を眺めがら
俺の頭は勝手に反応を弾き出した。


・・・俺が消えたら生贄を上から出さなきゃ行けなくなるんだ。
都合の良い人形は残して置きたいと思うのが普通だろう。


「何故あんな事をしたのか。
説明してくれるねクルル少佐。」


・・めんどくせぇな・・・。


だが答えなければ極刑が待っている。
上層部は俺がベーダ人と通じていたのではないかと疑っているのだ。


・・・しょーがねぇなぁー・・・


俺はゆるゆると
重い口を開いた。

「・・・畏れながら申し上げますと・・・

ケロン軍からの集中砲火を浴びて尚
あのベーダ人は生きておりました。」


高い所から見下ろす連中に顔を向けて
しかしその汚い面は見ずに淡々と呟く。


「ご存知の通りベーダ人は並外れた回復力を持っておりますゆえ
このまま逃がしては
また露頭を組んで攻め込んで来るやも解りませんでしたので

出過ぎた事とは思いましたが
わたくしがベーダ人を捕獲し味方に着いた振りをして

テロリストの本拠を突き止めようと踊らせた次第であります。」

提督の目が細まるのが遠目からも解る。


「なるほど。
ベーダ人の件はまぁ。
結果撃墜する事ができたのだから良しとしようか。」

以外にアッサリと承認されて
思わず俺は眉を潜めた。
もっと追究される覚悟で
大量の屁理屈を考えていたのだが。


しかし。
やはり尋問は終らなかった。


「してクルル少佐。
君を迎えにやった兵士が悲惨な遺体で発見された件については
どう説明してくれるのかね?」

笑いそうになる口を
もう一度強く結ぶ。

眼鏡がなければ俺の目が笑みを溢していた事に気付かれていたかもしれない。


「・・・連行の途中でテロリストの残党に襲われた我々は
とっさにベーダ人からの攻撃をかわしましたが
兵士達は間にあわずに砲撃にあって・・・
あのような結果になってしまいました。

・・・生き残ったワタクシは必死でそのまま地下の宇宙艇ドックまで逃げ込んで
扉を閉めきった所で爆発とベーダ人の倒れる音とを聞いたのであります。

恐らくは別のケロン兵の攻撃を受けたのでありましょう・・。
もう扉の外から音が聞こえる事はありませんでした・・。」


小さく鼻を鳴らして
提督がそれに答える。

「・・確かにベーダ人の死骸は地下ドックの入口で発見されていたよ。

・・・ただし。」


「キレイに頭だけが吹き飛ばされていたがね」

提督の目は
俺の反応を窺うように細められている。

「恐らくは手榴弾かバズーカによってやられたのでしょう。」

事もなげに適当な返事を返してやると


「クルル君。

今度の戦闘で我々は兵士にバズーカーの使用を許可しなかった。

何故なら爆発の粉塵と煙が立つ間に
経験の少ない兵士には油断が産まれる危険があったからね。」

思わぬ言葉が返って来た。

「と言うことは君の証言を聞く限り

ベーダ人は手榴弾でやられたと言う事になるのだが・・・。

残念ながら未だ我が軍には
敵の首だけを吹き飛ばすと言う器用な手榴弾は存在しないのだよ」

黙る俺に提督は言葉を続ける。

「そう言えば以前。

君に設計を頼んだ小型爆弾はとても評判の良い物だったな。」


自然。
俺の顔が素に戻る。


・・・随分と・・・遠回しに言うもんだ・・・


「君が殺したんじゃないのかね。


・・・兵士も。

ベーダ人の残党も。」


不毛な会話は漸く核心に触れる。


「申し訳ありません。
先の集中砲火の轟音で耳を痛めておりまして。
今のお言葉よく聞き取る事ができませんでした。」

それでもまだいけしゃあしゃあと言ってやると一部の幹部はザワザワと騒ぎ出した。

しかし提督は依然微笑を湛えている。


あからさまな嘘に激昂しないだけ
こいつもまだ腐っても提督なのだろう。


提督は騒ぐ幹部達を手を上げていさめると

俺に向き直り結論を告げた。

「・・・まぁいい・・・。

しかし今回の事で
軍内で君をスパイだと思う者が増えてしまったのは紛れもない事実だ。

極刑とまでは行かなくとも
このまま君に上位での権限を与えて置く事は出来なくなった。」


・・・権限だと・・・?

俺には始めから

そんなもんはねぇだろうよ・・・

「よって君には。
現在の少佐の任から退いて頂き

新たに曹長の役についてもらう事となった。」


正直。
あまり興味がなかった。


・・・少佐だろうが
曹長だろうが・・・

俺の価値は同じだ。


俺は姿勢を正し

冷えきった手をこめかみに当てて敬礼をして。

「イエスサー」


やる気のない声が
強化硝子鉄の箱に響き渡った。






幹部も議場から捌けて。
部屋を去ろうとする俺の背中に声がかかる。

「クルル曹長。」

再び。
上空を見上げれば

そこには一人
議場に残る提督の姿があった。


「楽しい作り話だったよ。」


冷酷な笑顔を張り付けて
悪魔は俺に囁きかける。


「君も今回の事で自分の役割は何なのか・・・
理解したようだね・・・」


ザワリ

そのあまりにも冷淡な言葉に

瞬時に鳥肌が全身を走る。


「君には

期待しているんだよ」



そう言って席を立つ提督に

俺は必死に吐き気を堪えた。




(――とんだ茶番劇だ――)






部屋に戻るとそこには
見るからに荒らされた形跡があった。

上層部は俺をベーダのスパイではないかと疑ったのだから
これ位の事はするだろう。

俺は構わず部屋の中に歩を進める。

乱雑な部屋ももう特に気にする事はない。

少佐でなくなった以上俺は数日中に
この部屋を出るのだ。

しかし最後にやらねばならない事があった。


書類の山からコンソールを掘り出す。

軍から与えられたコンピューターはこの状態だと
規制と監視が強化されているはずだった。

俺はとりあえず席に着くと
机の下に隠したボタンでハッキングプログラムを作動させて
監視カメラの内部データに侵入すると
用意しておいたダミー映像を流し込む。

そしてもう一度席を立つと
床に散らばる物の中から
不味いと評判の菓子の袋を拾い上げて
ベリベリと開封した。

こんな時の為に自分で一から組直した
オペレーションシステムデータを
ここに隠して置いたのだ。

メモリースティックをリーダーに入れると
パスワードを打ち込んで
新たに独立したコンピュータを立ち上げた


ケロン軍の強化型セキュリティも
なんなく通過し。
俺はマザーシステムに侵入する。

そしてすぐにここ1日の間に検索された人物や作戦のデータなどを抜き取って
目の前の巨大なディスプレイへと映し出した。


「・・・俺様の手を潰す・・・ねぇ・・」

口は笑うがキーを叩く手は止まらない。

次々と切り変わる画像。
開いて行くウインドウ。
ふと。
その手がピタリと止まる。

・・・こいつは・・・
見たことがあるな・・・。


それは依然俺が偏頭痛にやられて壁にもたれてた時に
ケツに無理矢理注射機をねじ込んできた看護婦だった。

俺は再びキーを叩き始める。

そして最後に映ったデータから
この事件の総指揮が
ケロン軍の中でも最高の善人と呼ばれている男であることを知って
俺は笑い出す。


「・・・クックックックックッ・・・」


この男にも・・・。
俺は偽善を押し付けられた事があったな・・。

思わず苛立ちに武器を転送しようとしたが
ロックがされているようで一向に望む物は手に届かない。

「チッ・・・!」

俺は今まで座っていたイスに向き直ると
それを力任せに床から剥ぎ取り
そのまま勢いをつけて
俺を嘲笑うクズどもの顔へと叩きつけた

ゴギャャッッ!!




「・・・はッはぁっはぁっ・・・」


鈍い音を立ててひしゃげた液晶は

パラパラと俺に枠の破片を降らせてくる。

「・・・はぁっ・・・はっ・・・」


治まる動悸の隅に
困惑の空気を感じて。


「・・・あんたも・・・
中々良い趣味してんじゃねぇか・・・」




そのヌシに言ってやった。


目をやれば
荒れた部屋のパイプの陰には。

覗く紫の姿。


「・・・いつからそこにいた・・・。


ガルル・・・」




静かに出てきたその男の顔は

相変わらず目つきが悪くて堅苦しい表情をしている。





・・・が・・・


何故か今はその顔に酷く安心して。




・・・俺は少しだけ

悲しくなった。

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