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●§侵略基地§●
嘘つきの嘘(クルモア)

ここはクルルズ・ラボ。

いつものようにクルルは侵略兵器の研究にドップリとのめり込んでいる。
その後ろから
お盆にコーヒーを乗せたモアがイソイソと入ってきた。


「クルルさん。桃華さんから頂いた美味しいコーヒー淹れて来ました。
冷めない内に召し上がって下さい。
てゆーか滅私奉公?」

「ああ…。」


クルルが気のない返事を返して
コーヒーを口に運んでいく横顔を
モアは斜め後ろに立ってニコニコと見つめている。

そして。


「クルルさん」

「あぁ?」


モアはいつにもまして満面の笑みを浮かべ



「好きです。」


ブハホワァウ!!!!!!!

クルルは盛大にコーヒーを吹きこぼした。


「ァあああああああああああああッ」


珍しくあたふたとクルルがコンソールを拭き始めると
モアも焦ってタオルを探し
クルルの押入れの中から取り出して来た布で
一緒になってびしょぬれのディスプレイを拭って行った。


「はァ………。」


グッタリとうなだれてクルルがため息をつく。


「おめぇなァ…。俺様のパソコンが防水性だったから良かったものの…。
基地の中枢を台無しにする気かよ…。」

「ごめんなさい…。」


モアは純粋に心から反省しているようで。
クルルはもう一度疲れたため息を吐くと

しばらく迷ってからモアに話しかけた。


「…で…。
さっきのは…なんなんだ一体…。」


「さっきの……?」


モアは首を傾げて聞き直してくる。
クルルは何かムズムズして
モアからその顔を逸らした。


「…なんか…。言ったろうお前…さっき…。」


黄色い顔がほのかに赤らんで
オレンジ色になっている。


「あぁ。さっきの」


ようやくモアは胸の前で手を打つと


「あれ。嘘です。
てゆーか奇想天外?」

「は?」


天使のような顔で場の空気を突き落として。


「今日ってエイプリルフールって言って
ペコポンでは嘘をついて良い日なんだそうです♪

上でおじ様や夏美さん達がやっていて楽しそうだなーと思いまして。
てゆーか一連托生?」


思わず振り向いて、モアの邪気のない幸せそうな顔を見止めると
クルルは眩暈がしてきた。

いや。エイプリルフールの存在は知っていた。

知ってはいたが最近あまりにも忙しすぎた為に
日にちの感覚がすっかりなくなっていたのだ。

嫌がらせをこよなく愛すクルルとしては
まったくもって不覚な事ではあったが
今日がその日である事に今の今まで気付かなかった。


そして見つめるモアの手に
見慣れた布がコーヒーまみれになって握られているのが映って。


「…おめぇそれ…。俺のフトン…。」

「えっっ」


モアの天然にクルルの落胆は更に深くなる。

無残に茶色くなったフトンに
そーっと目を落とし
モアはさすがに青くなってクルルに頭を下げ始めた。


「ごめんなさいクルルさんっ!!小さいからてっきりタオルだと思ってしまって…」

「小さくて悪かったな。」


クルルの額に血管マークが浮かぶ。

モアはどうしていいのかわからずに
オロオロと涙目になって行った。

ふと。
クルルは表情を緩めると
モアに向かって微笑を浮かべる。


「いや。気にすんなよモア。
お前のやったことだからなぁ。特別に許してやるぜぇ。」


その言葉は
どう聞いても胡散臭かったが
今のモアには嘘でもありがたい言葉だった。


「ただちょっと頼みがあるんだけどなぁ。
代わりと言っちゃなんだが頼まれてくんねぇか。」


ギブ&テイクを信条とするクルルが
人にものを頼むと言う事は本当に許してくれる気があるのだろうと思って
モアはすぐに頷くとその詳細を聞いた。


「そこ。そこの台の下になぁ。
部品が一つ入っちまったんだ。俺の短けぇ手じゃ届かねぇもんでなぁ。
おめぇのその長ぇ手で取って欲しいんだよぉ。
クーックックックッ」


小さいと言われた事を気にしてるのか
嫌味を込めていうクルルの言葉に素直に従って

モアは台の下に膝を着いてかがみこむと
配線のひしめくその奥へと白い腕を伸ばし探り始めた。

その様子をイスから降りたクルルが眺めている。


「悪いねぇ。星の断罪者さんにこんな事をさせちまってぇ。」

「いえっ…こんな事で許してもらえるのならっ…
お安い御用ですっ…てゆーか適材適所?」


しかししばらくしても一向に部品らしきものはモアの手に触れてこない。


「…あれ〜…?」


クルルは腕を組んでジッとそれを見ていたが
おもむろにモアの方へと足を進めてくる。


「クルルさん部品って…どんな形なんですか?
てゆーか五里霧中?」

「知ってたか?モア。」

「はい?」


モアはウンウンと唸って配線に手を潜らせたまま
クルルに返事を投げかけて。


「俺様はなぁ。
お前が大好きで大好きでたまらないおじ様よりもずっと」


気付けばクルルは
モアのすぐ横まで近づいていて。


「ずっとずっとお前の事が。

好きだったんだよぉ。」


一瞬。
モアの手がピクリと止まり

そしてすぐに
先程の自分の嘘を思い出すと
クスリと笑ってクルル方に振り返った。


フワリ


その視界が


一面の黄色に遮られる。














何かが。

はむように触れていって。









離れたクルルの顔が

真顔で言った。













「嘘だよ。」














ペタリ。


モアはその場にしりもちを着いて。

呆然とラボを出て行くクルルを見つめた。


「…………。」



はまれた唇に手を当てると

一気に全身の温度が上昇する。







「・・・クルルさん…?」






今日はエイプリルフール。





「・・・・・・・・・。」






でも。












「それは…………反則です…。」











冷たいラボの床で


熱くなった体が











ブルリと震えた。


















日向家のリビングでは、窓を開けて
夏美とプルルが座り込み、近所で咲き誇る満開の桜達を眺めていた。


「あ!モアちゃん!
桜満開になったよ!モアちゃんも一緒にどう?
桃華ちゃんが桜の紅茶も置いてっ行ってくれたから
さっきプルルさんとマフィン焼いたんだ♪」


そう言うと夏美は
モアの返事も聞かずに台所の方へと歩いて行く。


「座れば?桜、キレイよ。」



ケロロの幼馴染と言う事でどこかライバル視していたはずのプルルにも
今は何も感じる事はなく。

モアは言われるまま
プルルの横へと腰を下ろした。


庭のスミではいつものように武器を磨くギロロが
チラリとモアに目をやると
またモクモクと銃を磨き始める。



心地良い春風がそよぐ。


台所からは
焼き直されるマフィンの甘い香りが漂って。


ボーっと桜を見つめたまま何も言わないモアに
いつもと様子が違うことに気が付いたプルルが声をかける。


「何かあったのモアちゃん?
…ははぁ。
…さてはさっそくクルル曹長にでも嘘をつかれたのねー?」


冗談で言ったつもりだったのだが

モアの顔が少し悲しそうに揺れて
すぐにまた元に戻ったのを見て、プルルは触れてはいけない事だったのかと
気まずげに下を向いた。




「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・。」





ピー

台所から沸騰を告げるヤカンの音が響くと
モアはようやく沈黙を破る。



「クルルさんて…どなたかいるんでしょうか・・・。」


「え?」


「クルルさんのお相手は…ケロン星とかにいらっしゃるんですか?
てゆーか相思相愛?」


「えっえっえっ…?
よく・・・解らないけど…いないと思うわ」


唐突なモアの質問は
よく解らない物だったが

プルルはとりあえずクルルの周りではガルルしか見たことがなかったので
そう答えてしまった。


「そうですか・・・。」


モアの横顔が
薄く笑ったようにみえて。


(あらららら・…?でも…。・・・それって・・・)


モアは相変わらずボーっと桜を見つめたまま
何かを考えているようだ。

プルルは口に手を当てて
横目でそれを何度もチラ見してしまう。


(これは大変ね。ケロロ君…。)


横で銃を磨くギロロは
何故か重くため息をついた。

そんなバットタイミングの折に
ケロロがけたたましい声を上げてリビングへと飛び込んで来る。


「マフィーン!!夏美殿マフィーン!!
我輩も食べるでありますよー!!!」


「あー!解ってるってば!
あんたの分もちゃんと用意してあるから
モアちゃんとそっちで待ってなさいよ!!」


言われてケロロがモアの方にスキップしてくると
プルルは汗を垂らしてモアの様子を覗きみる。


しかしいつもなら真っ先に振り向いて駆け寄るはずのモアは
今だにボンヤリと空を見つめたまま
ケロロが来た事にも気付いてないらしい。


「モア殿っ?」


ケロロの手がモアの肩に触れると
モアは跳ねるようにケロロの方を振り返った。


「おじさま・・・。」


その表情は硬い。


「モア殿・・・どうしたでありますか・・・?」


ケロロが心配そうにモアの顔を覗きこむと
モアの瞳は戸惑いに揺れて。


「いえ・・・。なんでもありませんおじさま・・・。
ちょっとびっくりしてしまって・・・」


モアはいつもの笑顔に戻ると
ケロロの手をとって自分の膝の上へと抱き上げた。


「今度は私も夏美さんと一緒にマフィンを焼きますね♪
てゆーか愛情料理?」


明るく言うモアに


「うんうん♪楽しみでありますモア殿のマフィーン♪」


ケロロも嬉しそうな声を上げる。




・・・が。


柔らかいモアの膝の上で
ケロロはモアの変化に気付いていた。

今までにない感情を
映し出したモアの瞳。

モア自身もまだ気付いていないだろうが
そこには確かに
新たな感情が産まれていた。


しかしケロロは
知らない振りをする。


「いや〜♪モア殿の膝の上は気持ち良いでありますなぁ〜♪」


「ケロロ君…なんかそれイヤラシイわよ…」


「モアの膝でよければいつでもお貸ししますよオジサマ♪
てゆーか和気あいあい?」


いつものように自分に優しいモアと
ジト目のプルル。


「いいんでありますよ〜♪春だしね〜♪」



ギロロは首を振って
黙ってテントの中へと潜って行く。



ケロロはモアの膝の上で満開の桜を見上げながら

風に乗って散って来た花びらに
手を伸ばし掴みとると


「モア殿。来年もこうやって、一緒に桜がみられたらいいよね〜」

「はい。おじさまっ。来年も一緒に見ましょう
てゆーか百花繚乱?」

「はいじゃぁ。これ。
あげるであります。
来年のお花見チケット。なくさないでね。」


モアの手の平に桜の花びらを握らせる。


「ケロロ君・・・粋なことするわね・・・」

「なんのことでありますか?」


プルルの冷やかしを軽やかにかわして。

ケロロはモアの胸に背を埋めた。


「来年は…どんな年になっているのでありましょうなぁ」


「あら。まだ春じゃない。ケロロ君。」


「気が早いですねぇ。おじ様。てゆーか先見之明?」


「そうで。ありますなぁ」






春はまだ始まったばかり。






だから。






まだ。


このままでいいと思った。







ケロロは満開の桜を愛しそうに見つめると


「さー!マフィンが焼けたでありますよー!!
皆で食べるであります!!」




またいつものように。無邪気な顔で笑った。

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あきゅろす。
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