エースが森から帰って来た時には、ネオはその場に寝ていた。体育座りをして、肩を上下に動かし寝ているネオに呆れて溜め息が出る。
だが、いきなり訳の分からない世界に来て、海賊に追いかけられたりすれば誰だって疲れるに決まってる。
船からタオルを持ってきて、肩にかける。相変わらず寝ているネオは無防備だった。
初めて会った時から、警戒を怠らなかったのはきっと、誰も信用していないからなのだろう。こうやってエースの前では無防備に寝ているところから少しは信用されているのかもしれない。
髪を弄ってみる。さらさらと流される黒髪。がたっと、こちら側に倒れてきた。寄り掛かる状況になる。
「……参った」
肩を預けている状況のせいで動きたくても動けない状況になってしまった。
顔を覗いてみる。顔立ちは確かに男っぽいかもしれない。だが、やはり、女らしくて、綺麗に見えた。身体も、男とは違う。
「コウ……」
ぼそりと呟いた言葉に、また、向いてしまう。ぼろりと瞳から流れる涙に驚きながら、先ほどの言葉が気にかかる。
コウ。そう、ネオは言った。涙を流しながら。
だが、その涙は溢れることなく、頬で渇いてなきものとなる。まるで、泣いたことを無かったことにするかのように。
「誰だよ……コウって」
帽子を深く被り直すことしか出来なかった。肩から顔をどかし、地面に寝かす。薪を使って火を起こす。適当に取って来た果物を口にする。
まだ、このとき、エースは知らなかった。自分自身の気持ちを。ネオ自身のことも。
太陽が出てきたとき、光がネオ頬を照らす。眩しさに重たい瞼を開ける。
「悪い悪い、寝ちゃった」
起きたネオはエースを見つけるとニコッと笑いながら悪気なく言う。エースはそんな声に振り返り、溜め息を吐いた。
相変わらず果物を口に含んでいる。
「やっと起きたか……腹減った、魚は?」
「……忘れてた」
そんなネオの言葉に、エースはまた大きな溜め息を吐く。
「ま、待てって。俺をナメるなよ」
そう言って立ち上がったネオはかつかつと、砂浜まで歩いていく。何をするのかと眺めるエースをよそに、砂浜に立ち、手を横に出した。その時、海が荒れ、波が襲う。エースは慌てて逃げ出した。
砂浜に打ち上がり、魚が行き場を無くし、ピチピチと跳ねる。
「な?」
振り返って笑うネオは海の光で輝いていた。
「お前な! 俺を殺す気か!」
「あ、ごめん」
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